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「絵本の読み聞かせの世界が伝えること」


 「絵本の読み聞かせの世界が伝えること」              
 
 未来をひらく子どもたちが、「心豊かに、思慮深く育ってほしい」「不安なことも多いこの社会を人間らしく強く生き抜く力を持ってほしい」それが私たち大人の願いです。その願いを叶える魔法の力が、絵本の読み聞かせの世界にはあると思うのです。
 私は、各地で開催される絵本の原画展に足を運ぶようにしています。11月末まで静岡市美術館で開催されていた「絵本画家・赤羽末吉展」では、『スーホの白い馬』の原画の迫力に圧倒されました。少し前になりますが、世田谷美術館では、「色の魔術師」として知られるエリック・カールの『はらぺこあおむし』『パパ、お月さまとって』の原画を鑑賞しました。美しい色彩は、色彩の迷路に迷い込んだようで魅力的でした。絵本の1ページは、絵画として鑑賞に値する芸術です。絵本を読み聞かせてもらうとき、子どもは、まっすぐな眼差しで絵本の絵を見ています。美しいと感じる感性が磨かれる瞬間です。
 また、すぐれた絵本は、心に響く美しい日本語で綴られています。信頼に結ばれた大人による温かく人間的な語りかけが、子どもの言葉の力を豊かにします。さらに、絵本には、子どもの心の奥深くに響く物語りがあります。その物語りは、人間らしく強く生きようとする子どもの背中をいつも励ますでしょう。
 このようなすぐれた絵本との出会いは、子どもにとっても読み聞かせる大人にとっても多くの恵みをもたらす力があります。読み聞かせている大人と子どもの世界は、独特な信頼と幸福に包まれます。絵本の読み聞かせをとおして、子どもは感動や驚きを伴いながら想像力や価値観、道徳観を獲得し、自ら成長していくのです。まさに未来をひらく子どもとのこの上なく幸せな時間の共有です。
 さて、小・中学生、いえ、大人にとっても読み聞かせをしてもらう時間は、有用だといわれています。子どもが絵本の文字を拾い読みしているのは、文字という記号を音声に換えているに過ぎません。物語りを理解して楽しんでいるわけではないのです。ところが、絵本を読んでもらっているときは、目の前の絵本の絵を瞬間的に動かし、実際には存在しない絵を頭の中で楽しんでいるのです。この、実際には眼に見えないものを頭の中に描き楽しむ力が、想像力です。大人と子ども、大人どうしであれ、言葉をとおして心の世界を共有し、想像力を豊かにして絵本の世界を楽しむためには、読み聞かせが大切なのです。

 以前、本学の基礎ゼミの時間(1年生対象)に、大人のための読み聞かせにチャレンジしました。選んだ絵本は、『おじさんのかさ』です。読み聞かせたあとには、学生に感想を求め話し合いをしました。(一般的に、子どもの読み聞かせでは感想を求めません)
「立派な傘を自慢に思うおじさんが、雨の日は傘を濡らさないために外出しないのは、滑稽だ」
「傘にあたる雨音や水たまりに足を踏み入れたときの音を楽しむ子どもの感性に刺激されて、変化していくおじさんの様子がおもしろい」
「大人がとらわれている既成概念を、子どもの豊かな感性が崩していく愉快さを感じた」
 絵本の読み聞かせをとおして、大人にも絵本の豊かさが伝わったと実感した時間でした。
参考図書
『スーホの白い馬』(大塚雄三・再話、赤羽末吉・画)福音館書店
『はらぺこあおむし』(作:エリック・カール、訳:もりひさし)偕成社
『パパ、お月さまとって』(作・絵:エリック・カール、訳:もりひさし)偕成社
『おじさんのかさ』(作者:佐野洋子、出版社:講談社)