「言語文化への招待」(2)
※職位や内容は投稿時のものです
2025年4月15日更新
前回、執筆の機会を与えていただきました「言語文化への招待」におきましては、「英語学習における言語文化領域」の総合的学習プログラムの概要を提示させていただきました。今回は、その各論の一つとして、〈英学史〉の観点から、〈英文解釈の可能性〉について述べさせていただきたく存じます。
特に大学生を中心とした読者層において、ベストセラー・ロングセラーとなっている『思考の整理学』(ちくま文庫)の著者である外山滋比古先生は、〈英文解釈法〉について、歴史的観点から深く考察されております。『読む英語』(研究社、現代の英語教育 第5巻、1979)に収録されている「英文解釈法」において外山先生は、次のように述べておられます。
「近代日本が急速に欧米の文化を消化し、これを摂取することに成功したのが諸外国から驚異の目で見られているのはよく知られているとおりであるが、その根底に外国の高度の書物をとにもかくにも日本語化することのできた事実があるのは見落としてはならない点である。外国語を訳し得たその基本には英文解釈法があったのである。つまり、英文解釈法は日本の近代化の原動力の一部となっていたということだ。」
「英文解釈法は近代の日本の生んだ誇るべき独創的体系化であった。英語英文学の世界に限るならば、もっとも大きな業績であると言っても過言ではない。」
従来、特に入学試験を意識した英語学習という、限定的な分野の一領域と考えられてきた〈英文解釈法〉に、歴史的視座からの位置と意味が与えられております。
さらに外山先生は、従来の〈英文解釈法〉に内在する複数の欠点を指摘していきます。それらは簡潔にまとめると、パラグラフ、スタイル、レトリックに対する意識の不足ということになります。そして、これらの問題を解決する「目ざましい英文解釈法」として、当時新たに出版された、佐々木高政先生の『英文解釈考』(金子書房、1978)について考察し、論考は、次のように結ばれております。
「南日恒太郎の解釈法が現われてから80年にして、ようやく、言語文化の全般とかかわりをもつ英文解釈研究が生まれた。この方向を伸ばしてゆくならば、日本の英語英文学の研究は、かつての漢学がそうであったように、本国とは独自に大きな文化を築くことができるであろう。日本文化にたいしても大きな影響を与えることであろう。
明治以来続けてきた外国語学習が大きな転換期にさしかかっている現在において、新しい英文解釈研究はきわめて重要な意味をもっている。」
以上のような、日本の近代化における言語意識の形成過程で重要な役割を果たしてきた〈英文解釈〉という言語活動の歴史的意味について、改めて確認していきたいと思います。言語文化の全体構造において、新たな思考を生成する可能性のある言語活動として、〈英文解釈〉を位置付けていきたいと考えております。
さて、本学は昨年度、開学30周年を迎えました。私の所属する磐田キャンパス図書館の英語関連領域書架には、開学時に準備されたと思われる、多くの参考図書が並んでおります。これらの図書は、開学にあたって、当時の教職員の皆様が、学生一人一人の英語力向上を願いながら、丁寧に選定されたものと拝察いたしております。
このような図書の中には、例えば、昭和期のロングセラー『現代英文解釈』(三省堂)の著者、荒牧鉄雄先生の著作も三種類含まれております。これらの三冊は、『現代英文解釈』とは別のものではありますが、荒牧先生流の英語学習法にふれることのできる、貴重な図書となっております。
今年度の授業におきましても、引き続き「英語Ⅰ」「英語Ⅱ」を担当して、受講者の英語学習を支えてまいります。言語文化の基礎領域への接続を念頭に置きながら、綿密に設計された総合教材の学習プログラムに基づいて、受講者の英語力養成に効果的な、構造的授業展開の継続に努めてまいりたく存じます。
英語学習者の参考として役立つ「英語学習における言語文化領域」の総合的学習プログラムを整えていくことが、継続課題であると考えております。今後とも御指導、御鞭撻および御支援を賜りますよう、切に懇請申し上げる次第です。
前回、執筆の機会を与えていただきました「言語文化への招待」におきましては、「英語学習における言語文化領域」の総合的学習プログラムの概要を提示させていただきました。今回は、その各論の一つとして、〈英学史〉の観点から、〈英文解釈の可能性〉について述べさせていただきたく存じます。
特に大学生を中心とした読者層において、ベストセラー・ロングセラーとなっている『思考の整理学』(ちくま文庫)の著者である外山滋比古先生は、〈英文解釈法〉について、歴史的観点から深く考察されております。『読む英語』(研究社、現代の英語教育 第5巻、1979)に収録されている「英文解釈法」において外山先生は、次のように述べておられます。
「近代日本が急速に欧米の文化を消化し、これを摂取することに成功したのが諸外国から驚異の目で見られているのはよく知られているとおりであるが、その根底に外国の高度の書物をとにもかくにも日本語化することのできた事実があるのは見落としてはならない点である。外国語を訳し得たその基本には英文解釈法があったのである。つまり、英文解釈法は日本の近代化の原動力の一部となっていたということだ。」
「英文解釈法は近代の日本の生んだ誇るべき独創的体系化であった。英語英文学の世界に限るならば、もっとも大きな業績であると言っても過言ではない。」
従来、特に入学試験を意識した英語学習という、限定的な分野の一領域と考えられてきた〈英文解釈法〉に、歴史的視座からの位置と意味が与えられております。
さらに外山先生は、従来の〈英文解釈法〉に内在する複数の欠点を指摘していきます。それらは簡潔にまとめると、パラグラフ、スタイル、レトリックに対する意識の不足ということになります。そして、これらの問題を解決する「目ざましい英文解釈法」として、当時新たに出版された、佐々木高政先生の『英文解釈考』(金子書房、1978)について考察し、論考は、次のように結ばれております。
「南日恒太郎の解釈法が現われてから80年にして、ようやく、言語文化の全般とかかわりをもつ英文解釈研究が生まれた。この方向を伸ばしてゆくならば、日本の英語英文学の研究は、かつての漢学がそうであったように、本国とは独自に大きな文化を築くことができるであろう。日本文化にたいしても大きな影響を与えることであろう。
明治以来続けてきた外国語学習が大きな転換期にさしかかっている現在において、新しい英文解釈研究はきわめて重要な意味をもっている。」
以上のような、日本の近代化における言語意識の形成過程で重要な役割を果たしてきた〈英文解釈〉という言語活動の歴史的意味について、改めて確認していきたいと思います。言語文化の全体構造において、新たな思考を生成する可能性のある言語活動として、〈英文解釈〉を位置付けていきたいと考えております。
さて、本学は昨年度、開学30周年を迎えました。私の所属する磐田キャンパス図書館の英語関連領域書架には、開学時に準備されたと思われる、多くの参考図書が並んでおります。これらの図書は、開学にあたって、当時の教職員の皆様が、学生一人一人の英語力向上を願いながら、丁寧に選定されたものと拝察いたしております。
このような図書の中には、例えば、昭和期のロングセラー『現代英文解釈』(三省堂)の著者、荒牧鉄雄先生の著作も三種類含まれております。これらの三冊は、『現代英文解釈』とは別のものではありますが、荒牧先生流の英語学習法にふれることのできる、貴重な図書となっております。
今年度の授業におきましても、引き続き「英語Ⅰ」「英語Ⅱ」を担当して、受講者の英語学習を支えてまいります。言語文化の基礎領域への接続を念頭に置きながら、綿密に設計された総合教材の学習プログラムに基づいて、受講者の英語力養成に効果的な、構造的授業展開の継続に努めてまいりたく存じます。
英語学習者の参考として役立つ「英語学習における言語文化領域」の総合的学習プログラムを整えていくことが、継続課題であると考えております。今後とも御指導、御鞭撻および御支援を賜りますよう、切に懇請申し上げる次第です。
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