就職活動における「やりたいこと探し」と「やるべきこと」
※職位や内容は投稿時のものです
2025年3月14日更新
3月に入り、就職活動が本格化しました。人手不足を背景にして、2025年卒の大卒新卒の求人倍率は1.75倍で(リクルートワークス,2024)、学生優位の売り手市場と喧伝されています(これを言われるとかえって、皆さんはプレッシャーを感じるかもしれません。あくまでも平均値であり、人気企業等は依然して厳しい選抜が行われています)。このような状況下で、まず本学の3年生を始めとする就活生が直面する課題として、「たくさんある仕事(企業等)をどうやって選ぶのか」があると思います。以下、児美川さんの『キャリア教育のウソ』等をもとにして、巷間言われている就職活動における「やりたいこと(仕事)探し」を吟味して¹ 、今の時期に「やるべきこと」ことを述べていきます。
就職活動のプロセスは通常、以下のように行われるのが一般的です。①机上で自分の経験を振り返り、「やりたいこと」「できること(できそうなこと)」「譲れないこと」を書き出す。②インターネットによる情報収集や働いている社員の方々の話を聞く。③「10年後、20年後、30年後」の「ありたい自分」を考えて、④「仕事」へと結びつけていきます。これは、①「自己理解」→②「仕事理解」→③将来の「キャリアプラン」を経た後、仕事を決めるというプロセスであり(以下、想定プロセス)、想定プロセスは順次的・階段的に進むことが前提となっています(児美川,2013)。現実問題として、想定プロセスに従えば、多くの学生は①「自己理解」でつまづくと思います。なぜなら、自身を納得させる確固とした答えが出せないからです。その結果、「やりたいこと探し」に終始し、そこから先のプロセスに進めない学生を過去、多く見てきました。しかし、少し考えれば、「やりたいこと探し」は、①「自己理解」の結果であり、②「仕事理解」が手がかりであることが分かると思います。つまり、想定プロセスでは①→②→③→④としていましたが、本来のプロセスは②→①→③→④ではないでしょうか。より厳密に言えば、②↔①のプロセスを往復することで、①「自己理解」を逐次更新していくのだと考えます。
想定プランでは以下の点でも複数の問題があると考えます。まず、③「キャリアプラン」について、10年後、20年後、30年後のそれが、先が見通せない現在で可能でしょうか。ここでは、「教育→仕事→引退」という3ステージにもとづくスキームが前提になっています。人生100年時代を迎えようとする今、グラッドン&スコット(2016)は3ステージからマルチステージへライフシフトせざるを得ないと指摘しています。概略を示せば、年齢による区切りがなくなり、学び直しや転職、長期休暇の取得等人生の選択肢が多様化するということです²。次に、④「仕事」という捉え方です。仮にやりたい仕事が見つかったとしても、その仕事に就けるかの実現可能性や社会的意味は考慮の外に置かれている場合が多いと思います。つまり、個々のキャリアは人それぞれで大きく変化する可能性が高く、これから就職を決めようとする皆さんでは予測が難しいということになります。また、最近少しずつ見直しが行われるものの、日本の雇用慣行では依然として就職というよりは就社であり、仕事の振分けは就職先の企業等に委ねられることになり、皆さんで決めることができないことが一般的です(やりたい仕事があって、それを行っているA社に入ることができても、やりたい仕事に従事できるかはA社の裁量になります)。
以上、想定プランを批判的に検討してきました。以下では、私が考える皆さんが今の時期に「やるべきこと」について触れます。まず、「仕事理解」のために、「企業等が何を生業としているのか」「従業員の方がどのように働いているのか」を多く見てほしいと思います。そして、「仕事理解」と「自己理解」との往復運動との結果、たくさんある仕事(企業等)を選ぶルーズな軸を設定していきましょう。もちろん、ルーズな軸なので、往復運動の中で更新しても構いません。この往復運動によって、自分の軸を更新していくので、最初にどの企業等をみるかはあまり重要でなくなると思います。つまり、過度な「やりたいこと探し」は必要ないということになります。なお、「従業員の方がどのように働いているのか」とは、ルーティンの仕事なのか、仕事の裁量はどの程度なのか、役割間の情報伝達と協議のあり方はどうか、等です。初職をどのように働くかは、マルチステージに移行するにせよ、皆さんのキャリアにとっては重要であることは変わりなく、その意味で「従業員の方がどのように働いているのか」に関する情報収集は抜かりなく行ってほしいと思います。
また、就職活動を通して獲得した就活生の変化が、入社後の成長認知と仕事への自信につながっていることを示唆した研究もあります(高崎,2023)。安易に企業等からのオファーメールやエージェントに頼るのではなく、ぜひ、もがいて欲しいと思います。そのもがきこそが、皆さん自身の変化(成長)につながります。最後に以下のことを書き留めておきます。「選ばれる為には自らが選ぶ必要がある」と。
注
1 私の授業では就職活動における「やりたいこと探し」の脆さを論じてきました。一方で小学校からキャリア教育を受け
てきた皆さんにとっては、「やりたいこと探し」は身近なものであったことから、なかなかここから脱却できないので
はないか、と思います。
2 詳しくはグラッドン,スコット(2016)で確認してください。
文献
グラッドン・リンダ,スコット・アンドリュー(2016)『LIFE SHIFT』東洋経済新報社.
児美川孝一郎(2013)『キャリア教育のウソ』筑摩書房.
高崎美佐(2023)『就活からの学習』中央経済社.
リクルートワークス(2024)「第41回 ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)」
<https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20240425_work_01.pdf>(2025.3.4)
3月に入り、就職活動が本格化しました。人手不足を背景にして、2025年卒の大卒新卒の求人倍率は1.75倍で(リクルートワークス,2024)、学生優位の売り手市場と喧伝されています(これを言われるとかえって、皆さんはプレッシャーを感じるかもしれません。あくまでも平均値であり、人気企業等は依然して厳しい選抜が行われています)。このような状況下で、まず本学の3年生を始めとする就活生が直面する課題として、「たくさんある仕事(企業等)をどうやって選ぶのか」があると思います。以下、児美川さんの『キャリア教育のウソ』等をもとにして、巷間言われている就職活動における「やりたいこと(仕事)探し」を吟味して¹ 、今の時期に「やるべきこと」ことを述べていきます。
就職活動のプロセスは通常、以下のように行われるのが一般的です。①机上で自分の経験を振り返り、「やりたいこと」「できること(できそうなこと)」「譲れないこと」を書き出す。②インターネットによる情報収集や働いている社員の方々の話を聞く。③「10年後、20年後、30年後」の「ありたい自分」を考えて、④「仕事」へと結びつけていきます。これは、①「自己理解」→②「仕事理解」→③将来の「キャリアプラン」を経た後、仕事を決めるというプロセスであり(以下、想定プロセス)、想定プロセスは順次的・階段的に進むことが前提となっています(児美川,2013)。現実問題として、想定プロセスに従えば、多くの学生は①「自己理解」でつまづくと思います。なぜなら、自身を納得させる確固とした答えが出せないからです。その結果、「やりたいこと探し」に終始し、そこから先のプロセスに進めない学生を過去、多く見てきました。しかし、少し考えれば、「やりたいこと探し」は、①「自己理解」の結果であり、②「仕事理解」が手がかりであることが分かると思います。つまり、想定プロセスでは①→②→③→④としていましたが、本来のプロセスは②→①→③→④ではないでしょうか。より厳密に言えば、②↔①のプロセスを往復することで、①「自己理解」を逐次更新していくのだと考えます。
想定プランでは以下の点でも複数の問題があると考えます。まず、③「キャリアプラン」について、10年後、20年後、30年後のそれが、先が見通せない現在で可能でしょうか。ここでは、「教育→仕事→引退」という3ステージにもとづくスキームが前提になっています。人生100年時代を迎えようとする今、グラッドン&スコット(2016)は3ステージからマルチステージへライフシフトせざるを得ないと指摘しています。概略を示せば、年齢による区切りがなくなり、学び直しや転職、長期休暇の取得等人生の選択肢が多様化するということです²。次に、④「仕事」という捉え方です。仮にやりたい仕事が見つかったとしても、その仕事に就けるかの実現可能性や社会的意味は考慮の外に置かれている場合が多いと思います。つまり、個々のキャリアは人それぞれで大きく変化する可能性が高く、これから就職を決めようとする皆さんでは予測が難しいということになります。また、最近少しずつ見直しが行われるものの、日本の雇用慣行では依然として就職というよりは就社であり、仕事の振分けは就職先の企業等に委ねられることになり、皆さんで決めることができないことが一般的です(やりたい仕事があって、それを行っているA社に入ることができても、やりたい仕事に従事できるかはA社の裁量になります)。
以上、想定プランを批判的に検討してきました。以下では、私が考える皆さんが今の時期に「やるべきこと」について触れます。まず、「仕事理解」のために、「企業等が何を生業としているのか」「従業員の方がどのように働いているのか」を多く見てほしいと思います。そして、「仕事理解」と「自己理解」との往復運動との結果、たくさんある仕事(企業等)を選ぶルーズな軸を設定していきましょう。もちろん、ルーズな軸なので、往復運動の中で更新しても構いません。この往復運動によって、自分の軸を更新していくので、最初にどの企業等をみるかはあまり重要でなくなると思います。つまり、過度な「やりたいこと探し」は必要ないということになります。なお、「従業員の方がどのように働いているのか」とは、ルーティンの仕事なのか、仕事の裁量はどの程度なのか、役割間の情報伝達と協議のあり方はどうか、等です。初職をどのように働くかは、マルチステージに移行するにせよ、皆さんのキャリアにとっては重要であることは変わりなく、その意味で「従業員の方がどのように働いているのか」に関する情報収集は抜かりなく行ってほしいと思います。
また、就職活動を通して獲得した就活生の変化が、入社後の成長認知と仕事への自信につながっていることを示唆した研究もあります(高崎,2023)。安易に企業等からのオファーメールやエージェントに頼るのではなく、ぜひ、もがいて欲しいと思います。そのもがきこそが、皆さん自身の変化(成長)につながります。最後に以下のことを書き留めておきます。「選ばれる為には自らが選ぶ必要がある」と。
注
1 私の授業では就職活動における「やりたいこと探し」の脆さを論じてきました。一方で小学校からキャリア教育を受け
てきた皆さんにとっては、「やりたいこと探し」は身近なものであったことから、なかなかここから脱却できないので
はないか、と思います。
2 詳しくはグラッドン,スコット(2016)で確認してください。
文献
グラッドン・リンダ,スコット・アンドリュー(2016)『LIFE SHIFT』東洋経済新報社.
児美川孝一郎(2013)『キャリア教育のウソ』筑摩書房.
高崎美佐(2023)『就活からの学習』中央経済社.
リクルートワークス(2024)「第41回 ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)」
<https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20240425_work_01.pdf>(2025.3.4)
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