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茶事


※職位や内容は投稿時のものです

2024年4月10日更新

 「茶事」は一般になじみの薄い言葉だと思う。「茶事」とは、小人数の客を招き、会席料理や茶でもてなすもので、時間も4時間以上かけてゆっくり行われる。「茶事」は、茶室で、料理や酒をいただき、さらに茶と菓子を楽しみ、心くばりの行き届いた空間で主人と客と心を通わせる、最上級のおもてなしだ。

 今回は「正午の茶会」に招かれたので紹介してみたい。

 午前11時、庭の腰掛待合で、しばし待つ。亭主のお迎えで、待合いから茶室へ。途中、蹲踞(つくばい)で手と口を清める。庭石を踏みしめ、季節の木や草、風を楽しみながら、躙口(にじりぐち)へ。腰を曲げ、足を折り畳むような感じで茶室の中へ入り、掛物、釜を拝見。

 亭主が席に入りあいさつ。茶室の炉には、室内を暖めるため、炭に火がついて釜の湯が沸いていたが、一端、釜を下ろし、炭を新しく入れる。私達は炉に近寄り、炭つぎを拝見。

 いよいよ、会席。飯、汁、向付(むこうづけ)の一汁一菜をのせた膳が運び込まれる。亭主は挨拶し一旦退席。膳には、左に飯碗、右に汁碗、向こうに向付が載せてある。まず汁を次に飯をいただく。今回の汁は、銀杏餅を入れた白味噌仕立て、少し和辛のきいた初冬の香りの汁だ。

 しばらくすると、亭主が酒と盃を持って入場。酒をいただき、向付に箸をつける。向付は、鯛の塩焼き。醤油で風味付けがしてあり、つまは浅草海苔と防風。

 続いて、懐石のメインディッシュである碗盛が出る。今日の碗は、蒸した海老、京人参と椎茸の煮物に、青菜軸をあしらい、柚子を添えた、見た目にも美しい料理。次は、焼物。幽庵汁をつけて焼いた鰆を向付の器にとりいただく。次に強肴(しいざかな)。今回の強肴は、蛸の軟煮、海老芋と菊菜の煮物。次は小吸物(こずいもの)。昆布仕立ての汁に松の実を入れたもの。続いて、八寸(はっすん)。この日の八寸は、牡蠣の旨煮、百合根の煮物。亭主が、海のもの、山のもので一巡、順番に酒を酌み交わす。「十分にいただきましたので、お湯を」とあいさつすると、酒は打ち切り、香の物と湯次(ゆつぎ)が出てくる。湯次は煎り米を少量入れたお湯、飯椀と汁椀の両方に入れて、香の物で椀の中を洗いながらいただく。

 料理を食べ終わると、デザートの菓子が出る。懐紙にとり、食べる。ここで、亭主が「席を改めますので」とあいさつし、私達客は、軸、釜、水差しなどをもう一度拝見して、一旦茶室から出て、庭の腰掛待合で待つ。

 待つことしばし、亭主が銅鑼で準備ができたことを知らせてくれる。メインイベントの茶をいただく心の準備をして、再び茶室へ。茶室の床の間には軸に替えて花が飾られている。花は椿。

 茶事では、まず「濃茶(こいちゃ)」、続いて「薄茶(うすちゃ)」が出る。ふだん、私達が茶会で経験する茶は薄茶。これに対し、濃茶は、薄茶に使う何倍もの量の抹茶にお湯を注ぎ、茶せんで練るように点てる。今回の茶碗は、少しくすんだ白い釉薬のかかった量感のある萩焼の椀。ひとつの茶碗に点てた茶を客が全員で順番にいただく。濃茶をいただいたあとに、茶碗、茶を入れた棗、茶杓などを拝見する。

 濃茶が終わると次は薄茶。薄茶は、客一人一人に違った茶碗で点てて出される。薄茶には干菓子が盆にのせて出される。客は、懐紙に取り、菓子をいただき、薄茶をいただく。再び、お道具を拝見し、亭主が一人一人に最後のあいさつ。午後3時頃終了。

 以上が、茶事の概要。ふだん私達が茶会というと、薄茶をいただくところだけだが、本格的な茶事では、薄茶は、茶事の余韻を楽しむための最後の部分だ。茶事では、待合、庭、茶室、軸、茶器、花、料理、茶、立ち振る舞い、会話など、全てがもてなしのための道具であり仕掛けである。茶は日本文化の代表だとよく言われるが、茶事を構成する全てが日本の文化である。静岡産業大学の茶室「楽茶庵」でも、「茶事」を行ってみたいものだ。