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学ぶカメレオン


※職位や内容は投稿時のものです

2024年12月15日更新

このエッセイを読んでいるあなたは、どのような方でしょうか。
何を求めて、この文字を追ってくれているのでしょう。
どのような言葉が欲しくて、ここに辿り着いたのでしょうか。

このような考えは、自分が”支える側”になった時に習慣づいた考え方の起点なのだろう、と振り返っています。

「自分の目の前の人が何を求めるのか」
「自分が大切にしたいと思った人のために、自分に何ができるのか」


トレーナーになりたい、支える側にまわりたい、と思った人。
自分がいま一番支えたいと思った人の顔を思い浮かべてください。
その人が笑顔になる、「ありがとう」と言ってくれる。
その瞬間を迎えるために、自分ができることは何でしょうか。

「トレーナーになるためには、何が必要ですか?」

幸いにも、学生からやSNSを通じたやり取りの中で、このような質問を受けることが多くなってきました。
私はいつも返すのが、「私は今からトレーナーです」と宣言したら、それがスタートです。ということ。

日本では、残念ながらこれこそがトレーナー、という確固たる定義がありません。
トレーナーであることを示す資格や、求められるスキルを担保する認定は数多く存在しますが、これさえあればOK、とされるものはないのが現状なんです。

その辺りを少し、紐解いてみましょう。

ここからは、この文章を読んでいるあなたを、
・本学トレーナープログラムをこれから履修する大学新1年生
・今頑張っているスポーツのコーチやトレーナーを目指す高校生
・藁科ゼミに入りたいかもと思った学生
・トレーナーってどんな人がやるんだろうと興味を持った方

として、話を進めますね。

肩書や資格は必要か

私自身は、資格を”手段”と捉えて活動しています。
これまでに私が取得した資格は、末尾に記載します。

結論から言ってしまえば、私は肩書きや資格、自分の事情なんかは素直に何でも良いと思っていて。
「目の前の選手」「目の前の学生」「目の前の学びで困っている人」に対して、自分の経験や能力から、できる限り質の高いアドバイスや教育をする(もしくは、あえてしない)だけなんです。

つまり、相手が成長したり、解決したりすること、がゴールなので。
「誰が」という影響のもとは、正直どこからでもいいと思っています。
もちろん自分発信でなくても、です。

とはいえ、自分にできることは増やしたい。
手札は多いに越したことはない。
相手が求めることに、最大限応えたい。
そんな思いで学びを深め、資格取得にチャレンジし続けてきました。

私は、ある人がみれば、コーチ的な立ち位置になることもありました。
もちろん、アスレティックトレーナーとして活動をすることも多くあります。
その他で言えば、国際部スタッフとして各国のスタッフや上部団体との折衝役、国際大会の統括ディレクターになったこともあります。
あるいは、研究者として情報集約やデータ取り、分析を主とした活動を主としていた時期もあります。
その全てを並行するときも、どれかに専念するときもありました。
それこそ、冒頭に示したような、相手の求めに応じて、が主です。

なんだか、カメレオンみたいですね。

現場が求める人材とは

でもいまの時代、スポーツを支える側の人間に求められるのは、他の専門職の方々と手を取り合い、「チーム〇〇」のように、1人を多くの人で支える共同体です。
これを、アスリートアントラージュ、といいます。

図. アスリートアントラージュ

上図が理想系であることは、誰もが疑わないでしょう。
しかしながら。
本当にその体制は、万人の、ひいてはサポートを必要としている人全てに浸透しているか、と問われたら、答えはNoでしょう。

実際の多くのスポーツ現場では、理不尽やうまくいかないことの連続です。
マンパワーが足りない、お金が足りない、モノが足りない、スキルが足りない…のないないづくしです。

いま現場でチームが、選手たちが必要としていることは何か。
どこから解決していけば、前に進めるのか。

このような「優先順位」づけをして、自分ができること、相手と一緒にやれることを増やしていく必要があります。
こうやって活動していると、問題は山積み、課題はひっきりなしに出てくる。
自分はいま何をやっているのだろうと悩みながらも、「支えるぞ!」と頑張れば頑張るほど、立ち位置をどんどん見失っていきがちです。

そんな時は、自分の原点とも言える、恩師の言葉をいつも思い返して、再スタートしています。


恩師からの言葉
トレーナーは、ただの荷物持ちやテーピングやマッサージ・氷嚢作りのためのお手伝いさんではない。
選手が「一番そばにいて欲しい」と思える存在になればいいんだ。

これは、現在のJSPO-AT(日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー)制度の生みの親のひとりでもあります、筑波大学名誉教授の白木仁先生の言葉です。
このフレーズは、いまでもずっと心の軸として残っています。

それをひたむきに信じてきたことが、今の自信や周囲の承認を呼び込んでくれているのだと、心から感謝しています。
白木先生のもとで学んだ、なによりの財産だと思っています。

博士学位記授与式にて 白木仁名誉教授(写真右)

現に、その言葉を実際に選手から言われた時には、感動して胸が熱くなりましたし、これからもっと頑張ろうと思いました。

さらに、私が現場を駆け回るようになった際、トレーナーの心得として、このようなことも示してくださいました。
組織と選手が対立してしまったら、必ず選手のそばにいること。味方であり続けること。

率先して動ける人材であれ。体育・スポーツの専門家として「動きで示せ」。
どちらもスポーツ現場にいる上で、私が大切にしている心構えです。
特に2つ目は、「率先垂範」という四字熟語として、自身の座右の銘にもしています。


終わりのない学び

さて、最後にトレーナーやサポーター業界の中で、もはや合言葉なんじゃないか、と思うくらい聞き及ぶフレーズをご紹介します。

それが、「学べば学ぶほど、学びたいことや学ぶべきことが増える」ということ。
研究者や専門職、教育者の方は、大いに頷いてくれると思っていますし、どの業種、どの職種でも、共通の認識としてあるものかもしれませんね。

しかしながら、支える側の矜持として、
「相手に信頼してもらえるだけの自信を見せる」

「”無知の知”を常に意識する」
という、ともすれば相反する意識にもなりうる中、相手の目の前にいる必要があります。

とても難しいバランス感覚だと思います。
いつまで経っても、「私がすべて正しい!」とは言い切れません。
とはいえ、「すみません、自信がないです」と相手の目の前で態度や言葉に出すことは、一部の状況を除けば、御法度だと思います。

学び続けながら、目の前の人を牽引する教育者であり、指導者となる。
それが、トレーナーになる、ということなのかもしれません。

チャレンジを続ける、目の前の大切な人のために何ができるのか。
そう考えることが、支える側のスタートラインであり、併走するサポーターの根っことして大事にすることなのかもしれませんね。

本記事が、読了してくださったあなたの今後の一歩を、少しでも後押しできていたら幸いです。

指導現場での筆者

【これまでに取得した資格等一覧】
博士(スポーツ医学)於 筑波大学
日本スポーツ協会公認バドミントンコーチ3
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー
日本パラスポーツ協会公認公認パラスポーツコーチ
日本パラスポーツ協会公認中級パラスポーツ指導員
日本パラスポーツ協会公認パラスポーツトレーナー
NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト
NSCA認定パーソナルトレーナー
高等学校教諭専修免許(保健体育科 茨城県)於 筑波大学
中学校教諭専修免許(保健体育科 茨城県)於 筑波大学
赤十字救急法救急員