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“夢と目標”


※職位や内容は投稿時のものです

 私は運が良いことに"一流のプロ野球選手"になるという明確な夢を9歳にしてもつことができた。その夢は"カタチ"を変えながら、様々な目標を私に与えてくれた。

 2016年に日本サッカー協会(JFA)主催の"JFAこころのプロジェクト"の夢先生にトヨタ自動車東日本硬式野球部に選手として在籍していた私が選ばれ、東日本大震災により被災した岩手県宮古市の中学生に夢を語った。中学生との対話の中で驚いたのが、「夢や目標をもっても叶わなかったときが怖い」と語る子どもたちが多いことであった。とはいえ、私も子どもの頃の夢を実現できたわけではない。私自身も夢と現実とのギャップにもがき、苦しんだ経験が何度もある。大きな目標をもつ度に大きな壁にぶつかり、何度も挫折を経験し、その度に這い上がってきたと自負している。それでも、夢や目標をもち、日々高みを目指し努力してきたからこそ新たな夢や目標に出会えた。

"JFAこころのプロジェクト"で夢先生を担当している筆者

子どもの頃思い描いた4つの目標とその結果(小学校の卒業文集より)
目標①
結果→
智辯和歌山高校で甲子園大会優勝
智辯和歌山高校で甲子園大会ベスト4
目標②
結果→
東京六大学野球リーグ(慶應義塾大学)で個人タイトル獲得
首都大学野球リーグ(筑波大学)で個人タイトル獲得
目標③
結果→
プロ野球(NPB)で活躍(オールスターゲーム出場)
企業のプロパーとして実業団で活躍(都市対抗野球大会出場)
目標④
結果→
ポスティングシステムを利用し、メジャーリーグ(MLB)で活躍
JREC-INを利用し、大学教員として活躍?
上記のように、子どもの頃描いた目標はほとんど達成できなかったが、後悔はない。理由は、3つ力を養えたと考えているからである。
理由① 他責ではなく自責で捉え、解決策を考えられる力が養われた
理由② 目標から逆算し、計画的に物事を実行していく力が養われた
理由③ 日々、自身に少しだけ負荷をかけ続けられる力が養われた
 これまで、小学生から大学生まで数多くの学校やクラブチームで外部指導者として野球指導に携わってきた。特に大学生において、「もっと早くこの技術や考え方について知りたかった。誰もそんなこと教えてくれなかった。」と自身のパフォーマンスに対する不満を他責で捉える選手に数多く出会ってきた。その際、いつも次の言葉を返すようにしている。「他責にするのは良くない。目標を達成するために日々野球を深く考えることができていれば、自身で気づけるはず。自身の目標は何?技術・体力の強み弱みは何?チームの中でどういった存在になりたい?野球ノートは毎日書いている?そのことに自信をもって答えられるようになったら、見える景色も変わってくるのではないか」と。それが考えられてこそ、選手としての成長が期待できる。なんとなく日々練習して上手くなるのは、成長期が過ぎるまで。その後、伸び悩む選手は自立思考が停止していることが多いと感じる。アスリートは研究者であり探究者でもある。そのことに早く気づけることが選手として重要である。また、我々にはそういったことを選手に考えさせるきっかけづくりが求められていると思う。

 ピッチャーマウンドからホームベースまで18.44m。アマチュアでも150kmを超えるストレートを軸に数種類の変化球を駆使して配球を組み立ててくる投手は少なくない。ピッチャーがボールをリリースしてから約0.4秒でキャッチャーミットにボールが収まる。打者はその一瞬の間に、数ある球種やコースをイメージし、バットの芯でボールを捉える必要がある。打者に多いのが、相手の分析はしっかりと行えているが、自己分析が甘い選手である。相手の戦術に対応することばかり考えていると、対応することに意識が向きすぎて相手のペースにハマってしまう。自身のスイングスピードやスイング軌道、癖や性格などを客観的に把握できていると、自身の得意な球種やゾーンにいかにして相手を誘導していくのかという打席での駆け引きができるようになってくる。ここで初めて”打席で勝負できている”という状況がつくられる。こうして文章にすると当たり前のように感じることでも、現場ではそのことに気づいていない選手や指導者がごまんといるという現状がある。大学4年間は子供から大人になっていく人生の転換期であると考えている。大学生として4年間学ぶ機会が与えられているのであれば、とことん自己分析と他者分析を行い、あらゆる計画や戦略を立て、実行し、その成功要因や失敗要因をさらに分析し、次に活かしていくという訓練を数多く行なってほしいと思う。その経験は、社会に出て、いわゆる“指示待ち人間”と言われる存在ではなく、客観的な視野で、今置かれている環境で何が必要なのかを常に考え、主体的に行動に移していくことのできる“価値ある存在”へと自らが変わっていくきっかけになると思う。

 私は”自身の価値”を如何にして高めるかを考えることは、人生のテーマでもあると考えている。「人生のある時期に感じる時間の長さは年齢の逆数に比例する」(ジャネの法則)という考え方では、歳をとるにつれて自分の人生における「1年」の比率が小さくなるため、体感として1年が短く、時間が早く過ぎると感じられるようになる。つまり、大学を卒業すると”あっという間”に時は過ぎ去り、気づけば歳をとった自分がそこにいるということである。いつの日か小さな努力を積み重ねてきて良かったと思えるように、学び続ける習慣を身につけよう。自身の価値を証明するものは過去の結果とその過程である。日々、少しだけ自身に負荷(目標達成のための努力)をかけて生きる。その積み重ねがいつしか大きな自力と自信を生み出すはず。未来ある学生にはそういった積み重ねができる人間育成を行なっていきたい。

私の“夢と目標”はまだまだ続く!!

実業団時代の筆者