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ショッピングカートの謎:なぜ計画外のものばかり入っているの?


※職位や内容は投稿時のものです

2024年9月13日更新

 皆さん、初めまして。今年度より静岡産業大学経営学部に着任した劉 放(りゅう ほう)と申します。よろしくお願いします。

 私は消費者心理学、マーケティング論、観光マーケティングの講義を担当しております。本稿では消費者心理学とは何かを例を挙げながら、また、マーケティングとの関連について説明します。

 私たちの日常生活は、購買行動の連続であるといっても過言ではありません。朝のコーヒーをどこから購入するのかというところから始まり、夕飯はレストランで外食するのか、スーパーマーケットから食材を購入して自炊するのかまで、数え切れないほどの購買行動を行っています。これらの一見”単純”な購買行動の背後には、複雑で面白い心理的メカニズムが働いているのです。

 例えば、大学生の皆さんがほぼ全員所有しているスマートフォンを例に挙げてみましょう。現在使用しているスマートフォンを購入した際のプロセスを振り返ってみてください。表面的には「欲しかったから購入した」という単純な意思決定に見えるかもしれませんが、実際には、複雑な心的要因が絡み合って、最終的な購買意思決定に至ったのです。

 まず、なぜ新しいスマートフォンが欲しかったのかを考えてみましょう。もともと持っていた古い機種が故障したからでしょうか?あるいは周りの友人たちとの会話に取り残されたくないからでしょうか?私たちの購買行動を駆り立てるのは一体何でしょうか?消費者心理学では、消費者のこのような購買行動の背後にある動機づけについて心理学的に解明を行っています。例えば、友人たちとの会話に取り残されたくないから購入した場合、集団への所属を求めるという欲求を満たすために誘発された購買行動として解釈することができるでしょう(Maslow,1970)。

 次に、購買環境の影響についても考えてみましょう。ここで、スーパーマーケットやコンビニエンスストアでの購買行動を思い起こしてください。店舗に入る前に事前に立てた購買計画を店舗に入ってからも厳密に守っていたのでしょうか?実際、私たちの購買行動は店舗のレイアウト、店舗の照明や音楽、商品の陳列方法、店舗内における商品の広告などの環境的要因に大きく左右されており、事前に立てた計画外の購買行動が頻繁に誘発されてしまうことが、多くの研究で明らかにされています(青木、1989;杉本、2012)。

 他にも、消費者のパーソナリティやライフスタイル、購買時の感情状態、家族からの影響、価格に対する心的評価など、種々の要因が絡み合い、相互に作用し、私たちの最終的な購買意思決定を形成していくのです。

 これらの消費者行動に関する心理学の知見は、単なる理論的な解明だけではなく、実務的にも極めて重要であり、特に顧客志向のマーケティング戦略の策定と実行において大いに役に立っています(杉本、2012)。例えば、どのような消費者に対していかなる広告を示せば有効なのか、消費者の価値観やライフスタイルに適合した商品開発、注目を集める効果的な商品陳列方法の考案など、消費者心理学の知見が広範に活用されています。

 以上のように、消費者心理学は私たちの日常生活に密接に関わっている学問であり、消費者として自分自身の行動を理解した上で、マーケティングの世界においても大きな力となるでしょう。


引用文献
 杉本徹雄(編著) 2012 新・消費者理解のための心理学 福村出版
 青木幸弘 1989 店頭研究の展開方向と店舗内購買行動分析 田島義博・青木幸弘(編著)店頭研究と消費者行動分析
  誠文堂新光社
 Maslow, A. H. 1970 Motivation and Personality. (2nd ed) Harper & Low. (小口忠彦〔訳〕1971 人間性の心理学
  −モチベーションとパーソナリティ 産能大学出版会)