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BRICSサミットと脱ドルの行方


※職位や内容は投稿時のものです

2023年10月18日更新

 今年の8月22日、南アフリカのヨハネスブルグで第15回BRICS サミットが開催された。BRICSサミットは、2009年にブラジル、ロシア、インド、中国の4か国で始まり、2010年に南アフリカが加盟し5か国となった。今回のサミットで、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の6か国の新規加盟が決まり、加盟国は11か国となった1)

 今回のサミットの最大の注目点は、脱ドルの行方である。ブラジルのルラ大統領は、以前から脱ドルの必要性を謳ってきた。ルラ大統領は2023年4月のBRICS銀行(新開発銀行)の総裁就任式におけるスピーチで「なぜブラジルと中国が貿易するときにドルを使わなければならないのだ?」「金本位制が終了した後、ドルが世界通貨としてあらゆる国際取引に使われると誰が決めたのか?」と脱ドルの必要性を力説した。世界の新興国の多くはルラ大統領の脱ドルの考えに共鳴している2)

 脱ドルの潮流を加速したのが2022年3月以降の米国など西側諸国による対ロシア経済制裁である。米国は国際送金を手がける世界的決済ネットワークであるSWIFTからロシアを排除し、ロシアが海外の中銀に保有する外貨準備を凍結した。このいわゆる「ドルの武器化」によって新興国の間では、ドルに依存することへの危機感が高まった。ドルへの過度の依存から脱却しなければ自分たちもいずれ米国から同様の経済制裁を受けるリスクがあるということだ。実際、今般のロシアに対する経済制裁に参加した国は、全世界196か国のうちわずか48の国と地域にすぎず、世界の全人口約78億人に対して、制裁参加国の人口は約12億人(15%)に過ぎない。新興国のほとんどはロシア制裁に参加しなかったのである3)

 今回のサミットでは、注目されていたBRICS共通通貨の議論は行われなかったが、脱ドルの方向は確実に進行している。とくにサウジアラビアなど原油輸出国のBRICS加盟は、ドル基軸通貨体制を支えていたペトロダラーシステムを大きく揺るがすものである。近年、新興国の間でドルに依存しない自国通貨建てで決済する仕組みが始まりつつある。世界の外貨準備における米ドルの比率は21世紀に入り着実に低下している。


(出所)日本経済新聞 2023年4月8日


 米国は1980年代以降、経常収支の赤字を拡大し続け、現在では莫大な対外純債務を抱えている。通常の国ならばとうの昔に国債がデフォルトし国家破綻が生じている状況である。米国の財政が未だに破綻していないのは、米ドルが世界の基軸通貨という特権的地位を享受しているからである。米国とは対照的に日本は経常収支の黒字をほぼ40年間継続し、現在対外純資産が世界最大である。また日本政府の外貨準備高は、中国に次いで世界第2位である。しかし日本の外貨準備の大半はドル建てで保有している。ドル基軸通貨体制がすぐに崩壊することは考えにくいが、日本が米ドルへの過度な依存を今後も続けることはリスク分散という観点から決して望ましいことではない。



脚注