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メタバースの可能性


※職位や内容は投稿時のものです

2022年5月31日更新

 コロナ禍の影響もあり、メタバースが注目されています。ただし、メタバースと言っても、まだまだはっきりした概念が定着している訳ではありません。日々、新たな技術が生まれるとともに、変化を続けているのが現状です。私が、ここで話題として取り上げる「メタバース」は、ざっくりと「アバター(利用者のシステム内での分身として画面上に登場するキャラクター)が自由に活動できる仮想空間におけるサービス」と考えて下さい。メタバースの歴史は意外と古く、1981年にはSFの世界で描かれています。インターネットの起源と言われるARPANETが1960年代に研究をスタートしたことを考えると、インターネットの普及の初期段階で既にメタバースという考えはSFの世界では存在していたということになります。1999年に公開された映画「マトリックス」でも、このメタバースの世界観は重要なモチーフとなっています。その後、2003年にセカンドライフという仮想空間でのサービスが生まれ、最初のメタバースのブームとなります。このセカンドライフの仮想空間内では、現実空間と同様に土地を購入し、家を建てたり、その家をレンタルしたり、売却したり、さらにはお店やクラブを作ったりすることができて、仮想空間を楽しむ人達が急増しました。しかし、ユーザの増加にインターネット環境などのインフラ整備が追い付かず、さらには、ユーザの増加に伴い、セカンドライフ内で発行される仮想通貨も急増することで仮想空間内において極端なインフレ状態を起こしてしまい、やがて2009年頃にはブームも沈静化してしまいます。その後、10年近くを経て、コロナ禍により再びメタバースが注目され始めているのが現在の状況です。この10年でインターネット環境は格段に増強されました。さらにコロナ禍で在宅ワークも拡がり、仮想空間で働くことがぐーんと身近になりました。教育機関も、GIGAスクール構想などの恩恵もあり、ICT機器の普及で学習環境が激変しました。多くの企業がメタバースに注目する状況になったのです。

 私はロボティックス、人工知能のほかに3次元コンピュータグラフィックス(3DCG)を研究・指導しています。メタバースでは、必須の技術です。現状のメタバースでは、アバターをはじめ、仮想空間内の建造物、乗り物などさまざまなオブジェクト(物体)が3DCGで描かれています。3DCGを学んだ学生は、自ら制作した3DCGキャラクターを自分のアバターとして、自ら制作した建物の中で生活し、自ら制作した乗り物に乗って移動することができるようになります。現実空間で、自分の家を製作し、自分の乗り物を製作するのは非常に大変ですが、メタバースでは、それが比較的容易に実現できる楽しみがあります。

 コロナ禍でオンラインでの仕事、オンラインでの授業が急速に広まりました。Zoom等のカメラとマイクを利用したテレビ電話の機能を使った活動が主流です。しかし、Zoomではなかなか人と人の距離感が縮まらず、長時間の利用では疲れてしまうことが懸念されています。メタバースでも、現状の技術では長時間の利用は疲れを伴いますが、Zoomに比べると臨場感や没入感は格段に高く、人と人との距離感も縮まるようです。本学でも、このメタバースを授業で利用することはできないか、と研究をスタートしたところです。その取り組みのひとつとして、2022年1月に実施した情報デザイン展という学生の卒業制作・授業制作等の作品展をメタバース上でも閲覧できるようにする実験を行いました。情報デザイン展は、2007年から開催されている作品展で2022年1月において16回目となるものです。主に情報学部の学生の作品展として開催されてきましたが、次年度以降も、経営学部の学生の作品を掲出する展示会として継続していく予定です。BiViキャンを展示会場としての実施でしたが、コロナ禍の影響で、会場内が密にならないように基本的に予約制等、制約条件下の慎重な実施となりました。そこで、より多くの人に自由に作品を閲覧してもらい、かつ制作者と閲覧者の交流の機会を持つ手段としてメタバースの利用を実験的に行うこととしました。藤枝ICTコンソーシアムの協力のもと、メタバースのガイアタウン(株式会社ガイアリンク)の空間を使い、作品展示を行ない、情報デザイン展の開催期間中は24時間、閲覧可能な設定としました。通常のBiViキャンでの開催では、近隣の市町から保護者や、卒業生、高校生の閲覧が主でしたが、メタバースを使い、24時間閲覧可とすることで、遠くは、長野、横浜からも閲覧に訪れて下さるようになりました。また、通常、BiViキャンは21時には閉館ですが、メタバースを利用し、24時間閲覧可とすることで深夜の時間帯でも何人かの方々が閲覧に訪れて下さいました。距離と時間の制約を超えて、多くの皆さんに作品を観ていただくことができました。

大絵馬プロジェクト作品(大学近くの岩田神社からの依頼)

3DCGアニメーション作品

過去の情報デザイン展ポスター

 この情報デザイン展でのメタバースの活用の成果から、さらに大学での学びのいろいろな場面にメタバースを活用できないか、研究を行っているところです。Zoomの先にある学びの可能性に向けて、新しい技術や環境の発展とともに、研究を続けています。