ウェルビーイング経営について考える -組織と働く人の持続的成長のために-
※職位や内容は投稿時のものです
2023年1月13日更新
最近「ウェルビーイング経営」について、よく考えます。ウェルビーイングは、心身ともに健康で幸福なことを意味します。健康が損なわれていないだけでなく、満たされて充実感のある状態です。従業員のウェルビーイングを高めることで、組織の成果を上げる経営がウェルビーイング経営です。
心身の健康を損なった従業員が増えると、損なった本人だけでなく組織の成果も下がります。健康を損なった人を補う仕事が増えたり、健康を損なう人が連鎖的に増えたり、辞める人も出てくるからです。組織の存続さえ難しくなるかもしれません。心の不調は退職に繋がりやすく、復職率が低い上、身体的不調より再発を繰り返す率が3.6倍も高いことが分かっています1)。心の健康の重要性がうかがえます。
とはいえウェルビーイング経営は従業員の健康維持や予防を目指す経営ではありません。目指すのは従業員の幸福です。強みを発揮することで従業員は満たされて充実感や幸福感を得る。従業員は自分の強みを自ら発揮したくなる。従業員の強みとその成長を、組織の成果に結びつけるというわけです。優秀な人材が辞めず、優秀な人材が集まるので、組織の成長が持続します。
今の世の中では、変化に気づいたり、先読みして対応したりするのは極めて困難です。持続さえ難しくなっています。変化がはやく、激しく、予測不可能だからです。少数の同質な経営層だけで対応するのは、ほとんど不可能でしょう。つまり、不確実性の高い今の世の中では、多様な従業員の力を借りなければ、組織の成長どころか維持さえ難しいのです2)。従業員のウェルビーイングを高めて、強みを発揮してもらう必要性が高まっているといえます。これが、近年の経営や心理学の研究における共通見解と思っています。
私がウェルビーイング経営をよく考えるようになった理由は、そういう経営を行う組織を学生の皆さんに選んでほしいからです。私の専門は「働く」を研究することで、今は大学生の「働く」準備に関心があります。心地よい仕事生活を楽しむためには、大学生活をどのように過ごせばいいか研究しています。そして、在学中に準備が大切と考えています。
でも,個人の側の準備だけでは不足です。働く環境の助けが必要です。在学中に自分の強みを見つけ、強みを発揮できる仕事を見つけても、その強みを活かしてくれる環境がないと挫けてしまいかねません。もちろん心身ともに健康で幸福であることの重要性を理解している環境は必要不可欠です。
卒業後、最初のキャリアで挫けてしまうと、強みを発揮して成長する喜びが摘み取られてしまう心配があります。だから、ウェルビーイング経営に目を向けてもらいたいと願い、よく考えるようになったわけです。社会に出て、ウェルビーイング経営を実行するリーダーとして活躍してもらいたいという願いもあります。
1) 労働政策研究・研修機構 (2013). メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査. 労働政策研究・研修機構 Retrieved December, 27, from URL: https://www.jil.go.jp/institute/research/2013/112.html
2) 太田さつき・竹内倫和・高石光一・岡村一成 (2016). プロアクティブ行動測定尺度の日本における有効性:Griffin, Neal & Parker(2007)のフレームワークを用いた検討. 産業・組織心理学研究, 29, 59-71.
<主な参考文献>
最近「ウェルビーイング経営」について、よく考えます。ウェルビーイングは、心身ともに健康で幸福なことを意味します。健康が損なわれていないだけでなく、満たされて充実感のある状態です。従業員のウェルビーイングを高めることで、組織の成果を上げる経営がウェルビーイング経営です。
心身の健康を損なった従業員が増えると、損なった本人だけでなく組織の成果も下がります。健康を損なった人を補う仕事が増えたり、健康を損なう人が連鎖的に増えたり、辞める人も出てくるからです。組織の存続さえ難しくなるかもしれません。心の不調は退職に繋がりやすく、復職率が低い上、身体的不調より再発を繰り返す率が3.6倍も高いことが分かっています1)。心の健康の重要性がうかがえます。
とはいえウェルビーイング経営は従業員の健康維持や予防を目指す経営ではありません。目指すのは従業員の幸福です。強みを発揮することで従業員は満たされて充実感や幸福感を得る。従業員は自分の強みを自ら発揮したくなる。従業員の強みとその成長を、組織の成果に結びつけるというわけです。優秀な人材が辞めず、優秀な人材が集まるので、組織の成長が持続します。
今の世の中では、変化に気づいたり、先読みして対応したりするのは極めて困難です。持続さえ難しくなっています。変化がはやく、激しく、予測不可能だからです。少数の同質な経営層だけで対応するのは、ほとんど不可能でしょう。つまり、不確実性の高い今の世の中では、多様な従業員の力を借りなければ、組織の成長どころか維持さえ難しいのです2)。従業員のウェルビーイングを高めて、強みを発揮してもらう必要性が高まっているといえます。これが、近年の経営や心理学の研究における共通見解と思っています。
私がウェルビーイング経営をよく考えるようになった理由は、そういう経営を行う組織を学生の皆さんに選んでほしいからです。私の専門は「働く」を研究することで、今は大学生の「働く」準備に関心があります。心地よい仕事生活を楽しむためには、大学生活をどのように過ごせばいいか研究しています。そして、在学中に準備が大切と考えています。
でも,個人の側の準備だけでは不足です。働く環境の助けが必要です。在学中に自分の強みを見つけ、強みを発揮できる仕事を見つけても、その強みを活かしてくれる環境がないと挫けてしまいかねません。もちろん心身ともに健康で幸福であることの重要性を理解している環境は必要不可欠です。
卒業後、最初のキャリアで挫けてしまうと、強みを発揮して成長する喜びが摘み取られてしまう心配があります。だから、ウェルビーイング経営に目を向けてもらいたいと願い、よく考えるようになったわけです。社会に出て、ウェルビーイング経営を実行するリーダーとして活躍してもらいたいという願いもあります。
1) 労働政策研究・研修機構 (2013). メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査. 労働政策研究・研修機構 Retrieved December, 27, from URL: https://www.jil.go.jp/institute/research/2013/112.html
2) 太田さつき・竹内倫和・高石光一・岡村一成 (2016). プロアクティブ行動測定尺度の日本における有効性:Griffin, Neal & Parker(2007)のフレームワークを用いた検討. 産業・組織心理学研究, 29, 59-71.
<主な参考文献>
- Clifton, J. & Harter, J. (2021). Wellbeing at Work. Gallup Press. (クリフトン, J. & ハーター, J. 古屋博子(訳) (2022). 職場のウェルビーイングを高める 1億人のデータが導く「しなやかなチーム」の共通項 日本経済新聞出版)
- 前野 隆司・前野 マドカ (2022). ウェルビーイング 日本経済新聞出版
- 森永 雄太 (2019). ウェルビーイング経営の考え方と進め方 労働新聞社
- Seligman, M. E. P. (2012). Flourish: A Visionary New Understanding of Happiness and Well-being New York: Ink Well Management, LLC. (セリグマン, M. 宇野カオリ(訳) (2014). ポジティブ心理学の挑戦--“幸福"から“持続的幸福"へ-- ディスカヴァー・トゥエンティワン)
- 上村 紀夫 (2020). 「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする? クロスメディア・パブリッシング
関連リンク
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