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仕事へのアプローチを再考する:『君たちはどう生きるか』を通して


※職位や内容は投稿時のものです

2022年8月12日更新

 3年生はインターンシップ、4年生は就職活動と、仕事に関して考える機会も多いと思いますので、『君たちはどう生きるか』を手がかりに考えてみます。

 同書は、昭和12年に発表された古典ですが、近年では漫画化・映像化され、ご存知の方も多いと思います。内容は、主人公のコペル君が学校生活を送る中で経験したことを、その話を聞いた叔父さんがコペル君に書いたノートを通して、「ものの見方」や「社会の関係性」等のヒントを示す構成となっています。最後に、コペル君が叔父さんへの応答という形で、自らの生き方を示し、読者に対する「君たちは、どう生きるのか」という問いで、終わります。叔父さんのノートには生き方に対するノウハウが示されず、コペル君が語るそれについても、具体的ではありません。従って、即時に具体的な答えを求めがちな現代人からすれば、もの足りなさを感じるかもしれません。しかし、「ものの見方」「社会の関係性」等の知識を下敷きに、「どう生きるかを自分で考えて決定することができる」というテーマで貫かれているがゆえに、時代を超えて、多くの人々に読み継がれてきたのでしょう。

 以下では、この本に書かれていた2点に着目して、仕事へのアプローチを述べていきます。

 「人間分子は、みんな、見たことも会ったこともない大勢の人と、知らないうちに、網のようにつながっているのだと思います。それで、僕は、これを『人間分子の関係、網目の法則』ということにしました」(吉野1982:87-88)

 これはコペル君が述べた箇所になりますが、端的に言えば、物やサービスを得ることは見ず知らずの人とつながっていることを意味します。皆さんの仕事選びに置き換えて考えると、商品等を皆さんに直接届けることができるB to C企業のみに眼を向けていませんか、とならないでしょうか。小売業に商品等が届く前に多くのB to B企業が介在しています。コペル君が言う、まさに「人間分子の関係、網目の法則」です。実は企業に占めるB to B企業に占める割合は70%程度と言われていますが、B to C企業のみを探し、自身の選択の範囲を広げようとしない学生も少なくありません。大学から初職をつなぐ就職活動は、様々な業種・職種を見聞できる絶好の機会です。ぜひ、コペル君の言う「人間分子の関係、網目の法則」を思い出して、様々な業種・職種を見て欲しいと思います。

 「君は使う一方で、まだなんにも作り出してはいない。…中略…君の生活というのは、消費専門家の生活といっていいね」(吉野1982:139)

 「君は、生産する人と消費する人という、この区別の一点を、今後、決して見落とさないようにしてゆきたまえ」(吉野1982:140)

 これは、叔父さんがコペル君に宛てたノートの一節です。学生から社会人になることは、消費者から生産者の側へと立場を変えることだと解釈できるのではないでしょうか(もちろん、就職して消費者の立場が完全になくなる訳ではありません)。一種のパラダイムシフトですが、ここを認識する学生はほとんどいないように思います。消費者マインドで企業を見れば、当該企業が提供する福利厚生や教育制度に関心が向きますが、生産者マインドで当該企業を見れば、どのような商品・サービスを、どのように生み出して等の生産の厳然たる事実に関心を寄せるのではないでしょうか。そうすることで、初職のミスマッチも減るのだと思います。なぜなら、企業は商品等を生産する場であり、新卒者の皆さんには生産者の役割を期待しているからに他ならないからです。

 以上、「君たちはどう生きるか」を通して、私なりに仕事に対するアプローチを述べてきました。3年生、4年生の皆さんには、これらの視点も加えて、納得のいく進路選択や就職活動にして欲しいと思います。応援しています。



文献
吉野源三郎(1982)『君たちはどう生きるか』岩波文庫.