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万年筆の限定インク


講師 熊王康宏(経営工学、心理評価、マーケティング)

 以前、国産万年筆メーカーのインクを感性評価した結果、“魅惑的で高級感のある”インクが、購買評価に影響を与えていることを明らかにできた。この国産メーカーのインクは、日本の情景などをイメージした“もの”で、海外でも高く評価されており、その人気は絶えない。地域、例えば富士山、鉄道などをイメージした色のインクが、限定販売されている。手帳・ノートなど、気に入ったインクの色でスケジュール管理することで、「どれだけ仕事ができたのか、今後の仕事・プライベートの時間はどの程度か、」など一目瞭然になり、非常に効率的に物事を進めることができる。

 筆記具メーカーであったモンブラン社は、リシュモングループの傘下になってから、時計、指輪、バッグなど、ブランド展開が高級路線で加速している。作家をテーマにした“リミテッドエディション”の万年筆に合わせて、そのインクも限定販売されている。本稿では、これら限定販売のインクのうち、“バルザック”と“ジョナサン・スウィフト”の2つを紹介したい。

【バルザック】
短くもその才能を発揮し、数多くの作品を残したフランスの文豪、バルザックに敬意を表した筆記具が販売された。バルザックは、ヨーロッパにおけるリアリズム文学の創始者の一人と呼ばれるほどの才能を持っていた。彼は、作品を書き続ける毎日であったが、他方では、夜の社交界に繰り出し、パリの美しい女性たちに囲まれていた“伊達男”という一面も持ち合わせていたようである。そんな華やかな生活に身を置いていたため、債務者から逃れるために引っ越すことも多く、結果として、多額の借金を残してしまったようである。バルザックが社交界で持ち歩いたステッキには、“ターコイズ”の装飾が施されていた。この“ターコイズ”は、彼を象徴する色でもあるかのように思える。

【ジョナサン・スウィフト】
 「ガリバー旅行記」でも有名なジョナサン・スウィフトは多才な作家であり、自らの過去の経験などを巡っているようにも思える作品が多い。日本では、子供向けの文学として受け入れられることが多いのであるが、当時のイギリス社会を風刺する意味合いが強いことに気づかされる。この小説の中には、“Nangsac”として日本の長崎から出港し、イギリスに帰国する場面がある。また、誰もが知っている検索エンジンサイトの「Yahoo!」は、略称の他に、この小説中のフウイヌム国におけるヤフー(yahoo):「野蛮な種族」という言葉が元になっているようである。インク瓶の形状も、ジョナサン・スウィフトが作品を出していた頃を思わせるような外観で、非常に懐古的なものであり、ラベルに“Seaweed Green”と書かれており、海草・海藻の緑色を意味している。海に漂うガリバーの姿を想像できるような色である。

 万年筆と同様、そのインクも奥深い世界であり、海外ブランドにおけるストーリー性のあるインク、地域限定のインクなど、これらのブランド力を消費者がどのように評価するのか、感性評価で明らかにしてみたいところである。