言葉の杖 ~教職課程4年次学生の取組~
教授 浅羽 浩(教育課程、教科教育法、教員養成)
後期に入り、四年生の学生たちは卒業研究発表会に向けた準備や就職活動のため、慌ただしい日々を過ごしています。四年生を対象とした講義の中に、毎週楽しみにしている講義があります。それは、教育実習を終えた学生たちが、教職の諸課題について実践的に学ぶ講義です。
本年度、この講義の柱の一つとして、35人の学生に二つのテーマを与え、毎回の講義の中で発表させることにしました。テーマは「自分が感動した体験や書物、芸術作品等について話をする」、「これまでに出会った言葉の中から、自分の支えになっている言葉を紹介する」の二つです。この取組には二つのねらいがあります。一つは、教師としてホームルーム等の場で、生徒たちに自分のことをきちんと語る訓練です。二つ目は、これから実社会に出ていく学生たちが人生の困難に直面した時に、心の支えとなる言葉(これを「言葉の杖」と呼んでいる)を持つということです。併せて、皆の前で自分の経験を語り自己を表出しあうことにより、卒業を前にした学生たちが相互理解や絆を一層深めることを期待して取り組むこととしました。
人生においては、自分の願いどおりに物事が運ばないことの方が多く、時にめげそうになることもあるものですが、学生たちの発表は、数多くの困難に出会いながらも希望を捨てないで物事を成し遂げた青年たちの実話が多く、毎回、感動させられるとともに力を得ています。卒業後、特別支援学校に勤務することを希望しているAさんは、最近、点字を習い始め、中高年の方々ばかりの受講生の集団の中でなじめないでいたところ、中途失明の男性が話しかけてくれ、その方の明るさや社交的な姿勢に感動した体験を語りましたが、その情景を思い浮かべながら、学生たちはとても温かい気持ちになりました。
言葉の杖では、中学校時代に数学の先生から教わった言葉「プラス(+)という字は、マイナス(-)から成る」についてのB君の話が印象に残っています。「初めは、数学の意味で捉えていましたが、違う見方をすると非常に面白い言葉であると感じました。マイナスを積み重ねていくと、マイナスだけで終わってしまいますが、どこかで掛ける(×)と、マイナスがプラスとなり、自分自身の栄養となると考えると面白いです。今までの自分はマイナスを積み重ねている側面が強いと感じていますが、これから何か鍵となる行動をして、これまでの経験に掛ける(×)ことができた時、自分は羽ばたくことができるように思います。」というものでした。
また、高校時代に長距離選手として陸上競技に打ち込んでいたC君は、少し高い目標を提示されると、「無理」という言葉を口にしがちでしたが、友人から「無理っていうな、難しいって言え」と言われたことを契機に、「難しい」ことなら、まだやれそうだと前向きに捉えることができるようになり、言葉の効用を感じたというのでした。
社会人ラグビーチームのレギュラー選手として活躍している20代半ば~30代の科目履修生二人は、それぞれ、自分が信条としている「考えすぎず今を生きよう」、「妥協と満足は進歩をとめる」という言葉を紹介してくれました。先輩の言葉を学生たちは重く受け止めました。このほか、学生が推薦してくれた図書や映画も、『「言語技術」が日本のサッカーを変える』『風が強く吹いている』等多数に上ります。講義の振り返りシートには、「今日もたくさんのいい話を聞くことができました。話を聞くことで、自分が体験したのと同じように勉強になりました。」「話を聞いたり、映像を見たりして鳥肌が立つくらい感動するし、もっともっと聞きたくなります。」「今回は本の紹介が多く、書店に行った際には探してみたい。」「みんなの発表を聞いて、自分も感動したり、この言葉素敵だなあと思うと、それを友人や家族に伝えたりと連鎖していきいいなあと思います。」等々の感想が記されており、私だけでなく、学生たちも発表を楽しみにしている様子が伝わってきます。発表する学生も耳を傾ける学生も、ともに素晴らしい感性を持っており、そこに彼らの確かな成長の軌跡を読み取ることができます。
言葉の機能については、コミュニケーションの道具としての側面が強調されやすいのですが、言葉は、論理的思考力や情緒・感性の基盤としても大きな機能を果たしています。人間は、言葉により生きているともいえます。35人の学生たちは、互いに紹介しあった35の言葉を持って卒業していくことになります。学生たちの人生に幸多いことを心より祈っています。
後期に入り、四年生の学生たちは卒業研究発表会に向けた準備や就職活動のため、慌ただしい日々を過ごしています。四年生を対象とした講義の中に、毎週楽しみにしている講義があります。それは、教育実習を終えた学生たちが、教職の諸課題について実践的に学ぶ講義です。
本年度、この講義の柱の一つとして、35人の学生に二つのテーマを与え、毎回の講義の中で発表させることにしました。テーマは「自分が感動した体験や書物、芸術作品等について話をする」、「これまでに出会った言葉の中から、自分の支えになっている言葉を紹介する」の二つです。この取組には二つのねらいがあります。一つは、教師としてホームルーム等の場で、生徒たちに自分のことをきちんと語る訓練です。二つ目は、これから実社会に出ていく学生たちが人生の困難に直面した時に、心の支えとなる言葉(これを「言葉の杖」と呼んでいる)を持つということです。併せて、皆の前で自分の経験を語り自己を表出しあうことにより、卒業を前にした学生たちが相互理解や絆を一層深めることを期待して取り組むこととしました。
人生においては、自分の願いどおりに物事が運ばないことの方が多く、時にめげそうになることもあるものですが、学生たちの発表は、数多くの困難に出会いながらも希望を捨てないで物事を成し遂げた青年たちの実話が多く、毎回、感動させられるとともに力を得ています。卒業後、特別支援学校に勤務することを希望しているAさんは、最近、点字を習い始め、中高年の方々ばかりの受講生の集団の中でなじめないでいたところ、中途失明の男性が話しかけてくれ、その方の明るさや社交的な姿勢に感動した体験を語りましたが、その情景を思い浮かべながら、学生たちはとても温かい気持ちになりました。
言葉の杖では、中学校時代に数学の先生から教わった言葉「プラス(+)という字は、マイナス(-)から成る」についてのB君の話が印象に残っています。「初めは、数学の意味で捉えていましたが、違う見方をすると非常に面白い言葉であると感じました。マイナスを積み重ねていくと、マイナスだけで終わってしまいますが、どこかで掛ける(×)と、マイナスがプラスとなり、自分自身の栄養となると考えると面白いです。今までの自分はマイナスを積み重ねている側面が強いと感じていますが、これから何か鍵となる行動をして、これまでの経験に掛ける(×)ことができた時、自分は羽ばたくことができるように思います。」というものでした。
また、高校時代に長距離選手として陸上競技に打ち込んでいたC君は、少し高い目標を提示されると、「無理」という言葉を口にしがちでしたが、友人から「無理っていうな、難しいって言え」と言われたことを契機に、「難しい」ことなら、まだやれそうだと前向きに捉えることができるようになり、言葉の効用を感じたというのでした。
社会人ラグビーチームのレギュラー選手として活躍している20代半ば~30代の科目履修生二人は、それぞれ、自分が信条としている「考えすぎず今を生きよう」、「妥協と満足は進歩をとめる」という言葉を紹介してくれました。先輩の言葉を学生たちは重く受け止めました。このほか、学生が推薦してくれた図書や映画も、『「言語技術」が日本のサッカーを変える』『風が強く吹いている』等多数に上ります。講義の振り返りシートには、「今日もたくさんのいい話を聞くことができました。話を聞くことで、自分が体験したのと同じように勉強になりました。」「話を聞いたり、映像を見たりして鳥肌が立つくらい感動するし、もっともっと聞きたくなります。」「今回は本の紹介が多く、書店に行った際には探してみたい。」「みんなの発表を聞いて、自分も感動したり、この言葉素敵だなあと思うと、それを友人や家族に伝えたりと連鎖していきいいなあと思います。」等々の感想が記されており、私だけでなく、学生たちも発表を楽しみにしている様子が伝わってきます。発表する学生も耳を傾ける学生も、ともに素晴らしい感性を持っており、そこに彼らの確かな成長の軌跡を読み取ることができます。
言葉の機能については、コミュニケーションの道具としての側面が強調されやすいのですが、言葉は、論理的思考力や情緒・感性の基盤としても大きな機能を果たしています。人間は、言葉により生きているともいえます。35人の学生たちは、互いに紹介しあった35の言葉を持って卒業していくことになります。学生たちの人生に幸多いことを心より祈っています。