まちがったっていいじゃないか(2)― 大学ってすごいよ! ―
准教授 青木優(物理学、情報学)
前回(2010年12月6日)、「まちがったっていいじゃないか ― みんなで問題を解いてみよう! ―」というタイトルでエッセイを掲載しました。そのエッセイは、次のような問題を学生達に一緒に解いてもらうことによって、‘まちがいを恐れずに’、みんなで一つの問題に取り組むことの大切さを学んでもらっているという話でした。
(問題)コインが8枚ある。その中に1枚だけ本物とはわずかに重さが異なる偽コインがある。このとき、天秤を3回使うだけで偽コインを見つけ出し、さらにそれが本物と比べて重いのか、軽いのかまで当てなさい。
そして、そのエッセイの最後に、「この問題は、コイン12枚まで天秤3回で解くことが可能です。」と書きました。実は、これにもちょっとしたエピソードがあります。今回は、それについて書きます。
私が高校生の時に、友人が次のような問題を持ってきました。誰が最初に解けるかをみんなで競った懐かしい問題です。結局、他の友人に先を越され、私は悔しい思いをしました。しかしその一方で、この問題の面白さに感動したことを今でも憶えています。
(問題2)コインが12枚ある。その中に1枚だけ本物とはわずかに重さが異なる偽コインがある。このとき、天秤を3回使うだけで偽コインを見つけ出し、さらにそれが本物と比べて重いのか、軽いのかまで当てなさい。
ここでは、前回同様、この問題の解答を説明しません。興味がある方は、自分で考えてください。必ず天秤3回で偽コインを見つけることが可能です。
実は、これだけでも十分なヒントになります。高校時代に友人がこの問題を持ってきた時は、他の人からの又聞きで、本当に天秤3回で偽コインを見つけられるかどうか分からない状態でした。その為、私は半信半疑で、ある程度考えて解けそうもなかったら、それ以上考えるのを止めようと思っていました。つまり、この時は、この問題が解けるかどうかの判定方法を知らなかったのです。しかし、その後、大学に入ってから「情報量」という概念を学習して、その判定が可能であることが分かった時、「大学ってすごいよ!」と思った事を、今でも憶えています。
以下、それについて説明します。
情報量とは
生起確率pの確率事象が持つ情報量を-log2(p)(シャノン)と定義します。仮に、明日、東海大地震が起こる確率は1/100で、起こらない確率は99/100とします。このとき、起こる場合の情報量は-log2(1/100)≒6.6(シャノン)であり、起こらない場合の情報量は-log2(99/100) ≒0.014(シャノン)となります。つまり、「生起確率が小さい事象が起こる」と知る方が情報量は多いということになります。
(問題2)が解けるかどうかの判定方法
12枚のコインの中から1枚の偽コインを取り出す確率は1/12です。したがって、偽コインを見つけるのに必要な情報量は、
-log2(1/12)≒3.58(シャノン)です。さらに、偽コインが本物と比べて重いか軽いか(確率1/2)を調べる為に-log2(1/2)=1(シャノン)の情報量が必要です。したがって、この問題を解くのに必要な情報量は3.58+1=4.58(シャノン)となります。また、天秤を使った1回の検査でわかるのは、「左側が重い、釣り合う、右側が重い」の3つの状態の何れか(確率1/3)なので、得られる情報量は-log2(1/3)≒1.58(シャノン)です。つまり、必要な検査回数は4.58/1.58 ≒ 2.9回となり、3回の検査で偽コインを見つけられることになります。
この問題に興味の無い人は、この程度の事で「大学ってすごいよ!」とは思えないでしょう。ただ、私がこのエッセイで言いたかったのは、どのような問題であれ、大学での学習は思いもよらなかった素晴らし解答に我々を導いてくれることがあるということです。つまり、様々な問題に興味を持っている人ほど、大学での学習は楽しく、そして役に立ちます。このエッセイが、これから大学教育を受けようと思っている全ての人に対して、少しでもお役に立てれば幸いです。
前回(2010年12月6日)、「まちがったっていいじゃないか ― みんなで問題を解いてみよう! ―」というタイトルでエッセイを掲載しました。そのエッセイは、次のような問題を学生達に一緒に解いてもらうことによって、‘まちがいを恐れずに’、みんなで一つの問題に取り組むことの大切さを学んでもらっているという話でした。
(問題)コインが8枚ある。その中に1枚だけ本物とはわずかに重さが異なる偽コインがある。このとき、天秤を3回使うだけで偽コインを見つけ出し、さらにそれが本物と比べて重いのか、軽いのかまで当てなさい。
そして、そのエッセイの最後に、「この問題は、コイン12枚まで天秤3回で解くことが可能です。」と書きました。実は、これにもちょっとしたエピソードがあります。今回は、それについて書きます。
私が高校生の時に、友人が次のような問題を持ってきました。誰が最初に解けるかをみんなで競った懐かしい問題です。結局、他の友人に先を越され、私は悔しい思いをしました。しかしその一方で、この問題の面白さに感動したことを今でも憶えています。
(問題2)コインが12枚ある。その中に1枚だけ本物とはわずかに重さが異なる偽コインがある。このとき、天秤を3回使うだけで偽コインを見つけ出し、さらにそれが本物と比べて重いのか、軽いのかまで当てなさい。
ここでは、前回同様、この問題の解答を説明しません。興味がある方は、自分で考えてください。必ず天秤3回で偽コインを見つけることが可能です。
実は、これだけでも十分なヒントになります。高校時代に友人がこの問題を持ってきた時は、他の人からの又聞きで、本当に天秤3回で偽コインを見つけられるかどうか分からない状態でした。その為、私は半信半疑で、ある程度考えて解けそうもなかったら、それ以上考えるのを止めようと思っていました。つまり、この時は、この問題が解けるかどうかの判定方法を知らなかったのです。しかし、その後、大学に入ってから「情報量」という概念を学習して、その判定が可能であることが分かった時、「大学ってすごいよ!」と思った事を、今でも憶えています。
以下、それについて説明します。
情報量とは
生起確率pの確率事象が持つ情報量を-log2(p)(シャノン)と定義します。仮に、明日、東海大地震が起こる確率は1/100で、起こらない確率は99/100とします。このとき、起こる場合の情報量は-log2(1/100)≒6.6(シャノン)であり、起こらない場合の情報量は-log2(99/100) ≒0.014(シャノン)となります。つまり、「生起確率が小さい事象が起こる」と知る方が情報量は多いということになります。
(問題2)が解けるかどうかの判定方法
12枚のコインの中から1枚の偽コインを取り出す確率は1/12です。したがって、偽コインを見つけるのに必要な情報量は、
-log2(1/12)≒3.58(シャノン)です。さらに、偽コインが本物と比べて重いか軽いか(確率1/2)を調べる為に-log2(1/2)=1(シャノン)の情報量が必要です。したがって、この問題を解くのに必要な情報量は3.58+1=4.58(シャノン)となります。また、天秤を使った1回の検査でわかるのは、「左側が重い、釣り合う、右側が重い」の3つの状態の何れか(確率1/3)なので、得られる情報量は-log2(1/3)≒1.58(シャノン)です。つまり、必要な検査回数は4.58/1.58 ≒ 2.9回となり、3回の検査で偽コインを見つけられることになります。
この問題に興味の無い人は、この程度の事で「大学ってすごいよ!」とは思えないでしょう。ただ、私がこのエッセイで言いたかったのは、どのような問題であれ、大学での学習は思いもよらなかった素晴らし解答に我々を導いてくれることがあるということです。つまり、様々な問題に興味を持っている人ほど、大学での学習は楽しく、そして役に立ちます。このエッセイが、これから大学教育を受けようと思っている全ての人に対して、少しでもお役に立てれば幸いです。