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スポーツ科学の活用


講師 館 俊樹(運動学、トレーニング科学)

 最近、テレビCMで非常に印象深いものがありました。キャノンソリューションズという会社のもので、大道芸人の青年が極めて高い技術のジャグリングを行っている(複数のボールを空中ではなく床に打ち付けている)のですが全く観客も集まらないし、周囲の注目もあびることができずにいます。そこに、キーボードをもった少年があらわれ、ジャグリングのボールをつかってキーボードを弾くように促します。すると、途端に観客が集まり始め拍手喝采を浴びるというものです。CMとしては、キャノンソリューションズと組めば元々ある技術の価値を大きくしますというようなアピールなのでしょう。この元々ある技術を他の技術と組み合わせる、もしくは別のものと組み合わせるという手法は、一見当たり前のように感じますが、科学の世界で大きな発見や人類を変えるような発明というものの背景には、意図しているか、していないかはともかく、多くの場合このような現象が存在します。

 雷の放電現象で有名なベンジャミン=フランクリンや数々の発明で有名なトーマス=エジソンも自分たちの研究が今日のような発展を遂げるとは想像していなかったでしょうし、ウランを発見したマリ=キューリーやダイナマイトの発見者であるアルフレッド=ノーベルは自分たちの研究が戦争の道具となるとは、研究中想像することはなかったでしょう。このような偉大な研究に限らずスポーツの世界でも、木製品をつくっていた米山製作所(現在のヨネックス)がその技術をいかし、バドミントン、テニス、ゴルフの世界で当時革命的だった道具をだし、スキージャンプで現在では当たり前のようにおこなわれているV字飛行も風洞実験室という飛行機や車の実験を行うような特殊な実験室で研究が行われました。

 さらに身近なレベルで述べますと、私は高齢者の歩行能力やスイング動作中の重心移動、体幹部の筋量、動作の効率等の研究を行っています。このような研究は重要ではあるのですが(私はそう信じています)結果がでるのに膨大な時間がかかりますし、私自身、この研究の世界的第一人者ではありません。しかし、私の研究室では、高齢者の歩行能力向上プログラムの開発、トランポリン選手のジャンプ動作を解析することでの競技支援、野球グローブ開発、シェイプアップマシン開発を学外の組織と共同で行っています。しかも、これらのことは、私の専門的な研究と必ずしも一致しません。わたしは、トランポリンに関しては完全な素人ですし、野球を専門的に行ったこともありません。シェイプアップなんて私の体型をご存じの人は笑ってしまうでしょう。ところが、私の専門分野である動作の効率に関する知識や動作の解析がそれぞれの組織の専門性と合わさることでより良いものがつくれると考えています。例えば、トランポリンの素人である私の、動作解析技術が指導者の経験や技術と合わさることで選手の競技力が向上するようになるわけです。私は研究者になろうと心に決めた頃、私は必ずやノーベル賞をとるような偉大な研究を行おうと思っていました。もちろん、その心は未だに健在ですが、最近では、私が行っている研究が、その研究単体で世界を変えるようなすばらしい研究ではなかったとしても、その研究手法や培った知識が別の専門性や知識と合わさることでノーベル賞に負けない発見ができると考えています。

 本学の学生の多くはスポーツに真剣に取り組んでいる、もしくは取り組んだ経験をもっています。将来スポーツに関わって生きていきたいと考えている学生と数多く出会います。そのような学生がスポーツで得たものと、本学で学ぶことのできる経営学やスポーツ科学と融合させることで、社会で活躍する人材となってくれることを願います。そして、私自身もそのように成長していきたいと考えています。