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まちがったっていいじゃないか ―みんなで問題を解いてみよう!―


准教授 青木優 (物理学、情報学) 

 このタイトルを見て、今年7月に他界された京都大学名誉教授で数学者、評論家、エッセイストの森毅氏の著書『まちがったっていいじゃないか』(ちくま文庫)を思い浮かべる方もおられるでしょう。私も学生時代にその本を読み、勇気付けられた事を憶えています。しかし、今回はその話ではなく、私が担当している授業についての話です。

 私が担当している授業の一つに、1クラスの受講者数が十数名の「基礎ゼミナール」という授業があります。その授業では、次のような問題を一緒に解いてもらうことによって、みんなで一つの問題に取り組むことの大切さを教えています。

 (問題)コインが8枚ある。これを①,②,③,④,⑤,⑥,⑦,⑧と表す。この中に1枚だけ本物とは僅かに重さが異なる偽コインがある。このとき、天秤を3回使うだけで偽コインを見つけ出し、さらに、それが本物と比べて重いのか、軽いのかまで当てなさい。

 授業では、この問題を次のような感じで解いてもらっています。

(教員) 「それではA君、最初に天秤の左右にどのコインを載せるか黒板に書いて下さい。」
(A君) 「左に①②③④、右に⑤⑥⑦⑧です。」
(教員) 「それでは、左の方が重いとしましょう。この時、①②③④>⑤⑥⑦⑧と書きます。それでは、次にどのコインを比べますか?」
(A君) 「左に①②、右に③④です。」
(教員) 「それでは、左右の重さが等しいとしましょう。つまり、①②=③④です。(いつも一番難しいパターンになるようにしています。)最後の1回です。どのコインを比べますか?」
(A君) 「左に⑤⑥、右に⑦⑧です。」
(教員) 「それでは、左の方が重いとしましょう。つまり、⑤⑥>⑦⑧です。さて、どのコインが偽物ですか?」
(A君) 「わかりません。」
(教員) 「偽物の可能性があるコインはどれですか?」
(A君) 「⑦と⑧です。」
(教員) 「そうだね!その理由は?」
(A君) 「天秤を2回使い終わった段階で、偽物は⑤,⑥,⑦,⑧のどれかに絞られ、しかも偽物は本物と比べて軽いことが分かります。だから、3回目で軽かった⑦か⑧のどちらかが偽物です。」
(教員) 「その通り!でも⑦か⑧のどちらが偽物かまでは分からなかったね。もう少しだね。ありがとう!それでは、次はBさん。Bさんならばどうしますか?」

 このように、一人ずつ前に出て答えてもらうと、大体、全員が一度答えて、二巡目に入った頃に正解者が出ます。しかし、全ての学生がA君のようにしっかり答えてくれるわけではありません。全く考えていなかったり、前の人と同じアイディアだったりすると、最初から「わかりません。」と答える学生も居ます。

 そんな時、私は「勘でも良いから、何か書いてください。」と指示することにしています。しかし、ほとんどの場合、その学生はその場で考え込んでしまいます。「勘でも良いと言われても、人前で恥をかきたくないし・・・」という意識が働くようです。

 そこで私は、考え込んでいる学生に次のようにアドバイスします。「間違えることは、恥ずかしいことではないよ。だって、君が間違えれば、それを見ていた他の人達は、『その方法では駄目なんだ!』ってことがわかるでしょう。つまり、君はみんなにヒントを与えることになるわけだ。君独りで問題を解いているんじゃなくて、みんなで解いているんだよ。」

 小学校から大学までの学校では、個人の能力を評価して成績を付けなければならない為、一人で問題を解かなければなりません。その為、‘正解は良し’、‘不正解は悪し’という一つの固定観念に縛られています。

 しかし実社会では、グループで協力して問題を解決することが多く、たとえ一人が間違ったアイディアを出したとしても、それがグループ全体としては最良の答えにたどり着く為のヒントになることも多々あります。したがって、必ずしも‘不正解は悪し’とも言えません。授業に於いても、間違えることを覚悟の上で、誰も思いつかなかった斬新なアイディアを出す学生も居り、それが後の人の正解に結び付くこともしばしばです。

 この問題で正解者が出た時、私は学生達に「これは、みんなの力でたどり着いた正解です。○○君独りでたどり着いた正解ではありません。ここまでに間違えた人が居たからこそ正解できたのです。」と話しています。
みなさん、間違いを恐れずに、自分のアイディアを人に話してみましょう。また、誰かが間違えたからと言って、笑ったり、非難することはやめましょう。正解よりも、斬新な不正解の方が価値があることもあります。まちがったっていいじゃないですか。
最後に、この問題は、コイン12枚まで天秤3回で解くことが可能です。みんなで、たくさん間違えながら正解にたどり着いてみては如何でしょうか?