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【研究成果】筋肉の硬さとダイナミックな身体運動パフォーマンスとの関連性を解明~運動のスピードが重要であることを示唆~


リリース日:2022.08.05
静岡産業大学(静岡県藤枝市・磐田市/学⾧ 堀川知廣)スポーツ科学部江間諒一准教授は、筋肉の軟らかさ・硬さと身体運動パフォーマンスとの関係を調べました。その結果、硬い筋肉を持つ人ほど、高速で実施する身体運動のパフォーマンスが優れていることを明らかにしました。この軟らかさ・硬さとは、皮膚上から筋肉を押したときに感じる軟らかさ・硬さではなく、腕や脚の⾧さに沿った方向(力が伝わる方向)での伸び縮みのしやすさ・しにくさに相当します。

骨格筋(いわゆる筋肉)は身体運動の原動力です。立つ・歩くといった日常生活動作も、アスリートが魅せてくれるダイナミックで美しいパフォーマンスも、筋肉が力を出し、骨を動かすことで生み出されています。よって、筋肉の特徴を様々な視点から検証していくことは、スポーツ競技を含む様々な身体運動パフォーマンスを向上させるために重要です。本研究をさらに進めていくことで、個々や競技に応じた有効なエクササイズの選択につながることが期待できます。

※この研究成果は、「European Journal of Sport Science」に掲載されています。

ポイント

  • 筋肉の軟らかさ・硬さを反映するデータを取得
  • スピードが異なる条件で、ダイナミックな身体運動パフォーマンスを評価
  • 筋肉の軟らかさ・硬さに着目した有効なエクササイズの開発につながることを期待

図. スポーツ科学分野において筋肉の特徴を調べる方法の例

研究の背景

これまで、筋肉の量や質を表す様々な指標と身体運動パフォーマンスとの関連が調査されてきました。例えば、筋肉の大きさは大きい方が良いのかどうか、筋肉は長い方がパフォーマンスは優れているのかどうか等です。近年、計測技術の進展により、組織の軟らかさ・硬さを調べることができるようになりました。そして現在、筋肉の軟らかさ・硬さと身体運動パフォーマンスとの関連が大きな注目を集めています。

私たちは、より高いパフォーマンスを発揮するために、伸張―短縮サイクル(stretch-shortening cycle; SSC)と呼ばれる筋肉の動きを用いています。例えば、高くジャンプしようとするとき、膝を軽く曲げて反動を使おうとします。この時、太もも前方に位置し、とりわけ大きい筋肉である外側広筋は、膝を曲げることで一度その長さが長くなり、その後一気に短くなります。このような筋肉の長さ変化の様子は、多くの身体運動において観察されます。ランニングや縄跳びで足が地面に接地する際、私たちの身体が崩れ落ちて地面にぶつからないのは、脚の筋肉が長くなりながら力を出し、ブレーキをかけるからです。一方、脚を伸ばすことが主でブレーキをかける必要がほとんどない(SSCを伴わない)身体運動もあります。スクワットの姿勢から膝の反動を使わずにジャンプする、自転車でペダルを漕ぐといったような運動です。

筋肉の軟らかさ・硬さとSSCを伴う身体運動パフォーマンス、SSCを伴わない身体運動パフォーマンスとの関連について、いくつかの先行研究で検討が行われています。しかし、軟らかさ・硬さがパフォーマンスに関連するのかどうか、一致した見解は得られていませんでした。不一致の理由の一つに、対象とした身体運動のスピードの違いがあるのではないかと考え、本研究で検討を行いました。

研究方法

本研究では、若年女性を対象に、超音波せん断波エラストグラフィ法で評価した外側広筋の軟らかさ・硬さと、ジャンプ力および脚を全力で伸ばした時のパワー(脚伸展パワー)との関係を調べました。ジャンプは、膝の反動を使わないジャンプ(SSCを伴わないジャンプ)、膝の反動を使うジャンプ(SSCを伴うジャンプ)、できるだけ高く接地は短く跳ぶよう指示した連続ジャンプ(高速でのSSCを伴うジャンプ)を行いました。脚伸展パワーは、体育座りのような姿勢から、前方に向かって重い板を全力で蹴る(脚を伸ばす)条件(重いのでスピードはゆっくり)と、軽い板を全力で蹴る条件(軽いので素早く蹴ることができる)を設定しました。これらは、脚を伸ばすだけの動作になるので、SSCを伴いません。

実験結果と今後の展望

外側広筋が硬い人ほど、連続ジャンプで高く跳べている結果が得られました。一方、筋の硬さと膝の反動を使わないジャンプの跳躍高、および膝の反動を使うジャンプの跳躍高との間に、明確な関係性はみられませんでした。1回のSSCに要する時間(膝の反動を使い始めてから、または地面に着地してから跳びあがるまでの時間)は、膝の反動を使うジャンプが平均869ミリ秒に対して連続ジャンプは平均161ミリ秒でした。つまり、連続ジャンプは、膝の反動を使うジャンプと比較して、約5倍のスピードでSSCが行われていました。この161ミリ秒という結果は、全力疾走したときの1歩当たりの接地時間相当か、やや長い程度です。すなわち、硬い筋を有している人は、高速でSSCが遂行される身体運動パフォーマンスが優れていることが示されました。

脚部筋の軟らかさ・硬さと脚伸展パワーとの関係について、筋が硬い人ほど軽い板を素早く蹴る条件で発揮したパワーが優れていました。一方、重い板をゆっくり蹴る条件で発揮したパワーとの間には、明確な関係性がみられませんでした。加えて、筋が最も硬い5人と最も軟らかい人5人をピックアップし、脚力を算出してみました。すると、重い板をゆっくり蹴ったときに発揮した脚力はほぼ同じでしたが、軽い板を素早く蹴ったときに発揮した脚力は、筋が硬い5人のほうが優れていました。すなわち、硬い筋を有している人は、高速で行う身体運動時に、大きな力を発揮できる可能性が示されました。

本研究は、ある時点における筋の軟らかさ・硬さと身体運動パフォーマンスを調べた横断的研究であるといった限界はあるものの、筋の軟らかさ・硬さが、高速でのSSCやダイナミックな動きが伴う身体運動パフォーマンスに重要な役割を果たす可能性を示しました。今後、様々な競技のアスリートを含む検証や、縦断的にトレーニング効果を調べ、筋の軟らかさ・硬さという視点を加えた、新たなエクササイズの開発を目指していきたいと考えています。

研究助成

本研究は静岡産業大学特別研究支援経費およびJSPS科研費(JP19K20055)の助成を受けたものです。

論文情報

著者

静岡産業大学 スポーツ科学部
准教授 江間 諒一

論文名

Association between elastography-assessed muscle mechanical properties and high-speed dynamic performance

掲載誌

European Journal of Sport Science

DOI

取材に関する問い合わせ先

静岡産業大学 広報・メディア課 佐野
電話:054-631-5840 / FAX: 054-646-5461
E-mail: koho-media@ssu.ac.jp