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通信48 共生社会の実現に向けて


                                     静岡産業大学経営学部教授 鳥海 順子
                                           E-Mail toriumi@ssu.ac.jp
今年4月に着任した鳥海順子と申します。よろしくお願い致します。こちらに来ましてから磐田市内のあちらこちらにトンボのモチーフを見かけます。不思議に思って調べてみましたら、ここはトンボの宝庫なのですね。桶ヶ谷沼には70種類、国内のトンボの種類の実に三分の一が生息していると知りました。トンボの幼虫(ヤゴ)は清流を好みますから、磐田市は清らかな水に恵まれた土地なのですね。
さて、私の専門は障害児教育です。重い知的障害児の心理発達や早期からの教育に関心があり、障害児施設や保育所、特別支援学校で子どもたちと関わりながら、研究を続けてきました。障害児教育は、10年ほど前までは特殊教育、現在では特別支援教育、最近ではインクルーシブ教育という言葉も使われています。これらの言葉の違いには障害に対する社会の考え方の変化が表われています。
私が小学生の頃は、専門的な教育の場も少なかったので、多くの障害のある子どもたちは一般の学校で私たちと同じ授業を受けていました。通学できないほど重い障害のある子どもたちは学校に行けませんでした。1970年代の終わり頃、ようやく障害のある全ての子どもたちが学校に行けることになり、受け入れるために養護学校等や特殊学級(当時)が増えていきました。このように、特殊教育は障害のある子どもたちのために、特別な場で特別な教育をする教育として発展しました。さて、今から10年ほど前(2007年)に特殊教育は特別支援教育になり、できるだけ一般的な教育の場で、個々に応じた教育を進めていこうとしています。  
皆さんは、バリアフリーやユニバーサルデザインという言葉を聞いたことがありますか。バリアフリーとは障害があっても、一般社会で暮らしやすいようにバリア(障壁)をなくすことですが、最近は、障害のある人に限らず、どのような人にとっても利用しやすく便利なユニバーサルデザインが注目されています。現在、日本は障害のある人、高齢の人、外国の人などいろいろな人が暮らしやすく、積極的に社会参加し、貢献できる社会、つまり共生社会をつくろうとしています。特別支援教育やインクルーシブ教育もそのような共生社会の実現のために必要とされています。そして、一般の学校における教育にもユニバーサルデザインの考え方を取り入れて、すべての子どもたちにとってわかりやすく、取り組みやすい授業づくりが求められるようになりました。
話は変わりますが、来年はいよいよ日本でオリンピックとパラリンピックが開かれます。2017年に国が策定した「ユニバーサルデザイン 2020行動計画」によって、パラリンピックもマスコミなどで紹介される機会が増え、競技種目が学校現場で積極的に取り入れられたりしています。これらも未来を担う子どもたちが障害について知り、共生社会の一員として育つための取り組みと言えます。
ところで、静岡県では「心のユニバーサルデザイン」を基盤とした「共生・共育」を目指した教育が進められ、「静岡方式」として全国から注目されてきました。例えば、静岡県は通常の学校(小・中・高等学校)に特別支援学校の分校や分教室を積極的に設置しており、その数は全国の中でも上位にあります。つまり、学校生活の中で、日常的に障害のある子どもたちと交流できる環境が実現されています。それを可能にしているのは、県政を進める基本的な考え方の中にユニバーサルデザインが取り入れられたことが大きいと思われます。静岡県は、1999年に全国で初めてユニバーサルデザインの考え方を県政全般に導入し、「ふじのくに国ユニバーサルデザイン行動計画」(第1次2000-2004年度)をつくりました。現在、第5次(2018~2021年)の行動計画(~すべての人が自由に活動でき、お互いを認め合い、 思いやりあふれる「美しい“ふじのくに”」づくり~)が進められています。静岡県のユニバーサルデザインの考え方に基づく取り組みは既に20年の歴史をもっています。これからも県政の中にしっかりと根付き、共生社会実現のために豊かな実りをもたらしてくれることを大いに期待しています。

(参考文献)
1) 松浦康夫『静岡県におけるユニバーサルデザインの取り組み』人間工学,Vol38,No2, pp.89-91,2002.
2) 小畑文也・鳥海順子・義永睦子編『Q&Aで学ぶ障害児支援のベーシック<2訂版>』コレール社,2018.
3) 静岡県『ユニバーサルデザイン入門』ぎょうせい,2003.
4) 静岡県『ふじのくにユニバーサルデザイン行動計画』静岡県の公式ホームページ,
http://www.pref.shizuoka.jp/ud/about/keikaku2013.html (参照2019年7月13日).
5) 柳本雄次『通常学校に設置された特別支援学校分校・分教室に関する研究(2)-都道府県の特別支援教育推進計画と先進的な取り組みー』常葉大学研究紀要(教育学部),No35, pp.247-267 ,2015.