通信45 <心理学は面白い>
静岡産業大学経営学部教授 漁田 俊子
E-mail:t-isarida@ssu.ac.jp
URL: https://www.ssu.ac.jp/faculty/teacher/iwata/#to-isarida
E-mail:t-isarida@ssu.ac.jp
URL: https://www.ssu.ac.jp/faculty/teacher/iwata/#to-isarida
昨年度、本学に赴任した漁田俊子(いさりだとしこ)と申します。どうぞ宜しくお願いします。学生の皆さんは私のことを多分ご存じないと思います。知っているという少数の方も、「保育実習の先生」と思っているでしょう。「いやいや、私は心理学が専門です」と大声で叫んでみたいと思っていたところへ、ちょうど今回、産業大学の学生さんたち向けに「心理学の面白さ」というテーマで応用心理学研究所センター通信45を書いて欲しいという依頼を頂きました。時宜を得た感じです。そこで、今回は、私の大学時代に「心理学」が面白くなって少しずつのめり込んでいったという昔話をしたいと思います。
<1年生>
入学直後、最初にびっくりしたのは、心理学科が建物の離れに「ネズミ小屋」を所有していて、多くの実験用ネズミ(ラット)が飼われていたことです。高校時代から、心理学には「児童心理学」「教育心理学」「社会心理学」「臨床心理学」「学習心理学」等の分野があるのは知っていましたが、医学系でもないのにネズミがいるとは・・! 「でもネズミで何をするんだろう?」 心理学科が何だか想定外の世界であるらしいと思ったのでした。
1年生の前期、心理学科4年生のお兄さんから「卒論を手伝って欲しい」と学食で声をかけられ、嬉しくて引き受けたのですが、卒論の手伝いとは、その4年生がやっているT字迷路の実験に使っていた「ネズミの世話」でした。そうか、心理学科の1年生はネズミの世話(トイレの始末、餌と水やり、ハンドリング)から始まるのか・・・・。
<2年生>
2年生になると、心理学教室(学生のたまり場2部屋)で国際誌Journal of Experimental Psychology, Journal of Verbal Learning & Verbal Behavior, Psychological Review 等の記憶の論文を読んでいる3,4年生たちに触発され、国際誌を読む雰囲気の中に入って、本当はよく読めていないのにちょっと知ったかぶりをするようになりました。授業と関係なく最初に読んだのは、「短期記憶」のピーターソン法の論文(Peterson & Peterson, 1959)です。短期記憶の論文(国際誌)はどれも面白くて、ワクワクしました。特に、方法論は推理小説の謎解きのように感じられました。空き時間をほぼ心理学教室で過ごすようになったお陰で、先輩が作ったフランス語心理学研究会に入れて貰ったり、同級生4人で学習心理学研究会を作ったりしました。いずれもサークルみたいなものです。フランス語心理学研究会では、Fraisse et Piaget (1963)を読みました。毎月レポーターが回ってくるのはきつかったのですが、結果的に大学院の入試(第2外国語)では大層役立ちました。
<3年生>
3年生前期に私にとって特別なことがありました。知覚心理学の先生が「今度の日心(日本心理学会のこと)で発表するから気が向いたら聞きに来てね」と授業中におっしゃったのです。授業が終わってから「先生、学会って、参加費とか払わなければ入れないんじゃあないですか」と聞きに行くと、「大丈夫。こっそり入れば分からないから」というご返事。(時効とは思いますが、問題があるかもしれないので、その先生のお名前は伏せておきます)。そこで、1人で潜り込むのは怖かったので、何と母を誘って、大阪大学主催の日心に参加しました。そこで、一番関心のあった「記憶」分科会の部屋に行ってみました(声をかけて下さった知覚の先生の発表を聞いたかどうかは忘れてしまいました)。流石に、当時旬だった短期記憶の部屋は、どこも立ち見者が出て廊下まで溢れかえる、という混雑ぶりでした。潜り込んだ私は、梅本堯夫先生ゼミ(京大)のYKさん(小柄な女性)の発表を聞いて、「かっこいい! 私もいつかあんな風に学会で発表したいな」と思ったのでした。一方、横にいた母は「あの人、ちょっとスーツが大きすぎやしないかしらね」などと言っておりました。ここで得たことは、「短期記憶はやはり面白い」でした。そして、YKさんは私の憧れの人になったのでした。
<4年生>
卒論ゼミは、私が尊敬していた平出彦仁先生のゼミに入れて頂くことができました。この先生が、心理学科でネズミを飼い続けていらした先生でした。このゼミで、私は「短期記憶」の実験をやって卒論を書くことができたのです。
以上、45年程前の話です。そうして、私は今でも心理学の教員・研究者を続けています。
今回原稿依頼を頂いたお陰で、「心理学は面白い」について再考する機会ができました。上述のように、最初から心理学が面白いと思ったわけではありませんでした。大学2年までは、心理学の多くの分野の中で、自分と相性がよい分野、面白いと思う内容についてアンテナを立てて探していたように思います。もう一つ、心理学への興味を支えてくれたのは、心理学教室2部屋(1部屋は図書・心理検査・実験器具が配架されている心理学図書室兼閲覧室、司書付き。もう1部屋は食事・出入り自由、コピー機有り)の存在でした。私はこの2部屋に入り浸って、多くの先輩方を見習いながら、自分なりの心理学への姿勢(向き合い方)を形作っていったのではないかと思えます。
もし、学生の皆さんがこれから心理学を学ぼうとするならば、あるいは心理学でいずれ卒論を書こうと思っているならば、まずは、本学の心理学系の先生方の専門分野について調べてみるとよいと思います。本学には様々な分野の心理学の先生が数多くおられますので。また、本学内に、学生が学科(学問)別の勉強するためのたまり場(ラヴィータの学科版)のような場所が用意されているかどうか私は分かりません。が、ないのであれば、自分たちで作っていくことはできると思います。心理学という学問は、一度はまると実に面白いのです。
引用文献
Fraisse P. et Piaget J. (1963), Traité de psychologie expérimentale, 9 volumes, Paris, Presses universitaires de France, 1re édition.
Peterson, L. R., & Peterson, M. J. (1959), Short-term retention of individual verbal items. Journal of Experimental Psychology, 58, 193-198.
<1年生>
入学直後、最初にびっくりしたのは、心理学科が建物の離れに「ネズミ小屋」を所有していて、多くの実験用ネズミ(ラット)が飼われていたことです。高校時代から、心理学には「児童心理学」「教育心理学」「社会心理学」「臨床心理学」「学習心理学」等の分野があるのは知っていましたが、医学系でもないのにネズミがいるとは・・! 「でもネズミで何をするんだろう?」 心理学科が何だか想定外の世界であるらしいと思ったのでした。
1年生の前期、心理学科4年生のお兄さんから「卒論を手伝って欲しい」と学食で声をかけられ、嬉しくて引き受けたのですが、卒論の手伝いとは、その4年生がやっているT字迷路の実験に使っていた「ネズミの世話」でした。そうか、心理学科の1年生はネズミの世話(トイレの始末、餌と水やり、ハンドリング)から始まるのか・・・・。
<2年生>
2年生になると、心理学教室(学生のたまり場2部屋)で国際誌Journal of Experimental Psychology, Journal of Verbal Learning & Verbal Behavior, Psychological Review 等の記憶の論文を読んでいる3,4年生たちに触発され、国際誌を読む雰囲気の中に入って、本当はよく読めていないのにちょっと知ったかぶりをするようになりました。授業と関係なく最初に読んだのは、「短期記憶」のピーターソン法の論文(Peterson & Peterson, 1959)です。短期記憶の論文(国際誌)はどれも面白くて、ワクワクしました。特に、方法論は推理小説の謎解きのように感じられました。空き時間をほぼ心理学教室で過ごすようになったお陰で、先輩が作ったフランス語心理学研究会に入れて貰ったり、同級生4人で学習心理学研究会を作ったりしました。いずれもサークルみたいなものです。フランス語心理学研究会では、Fraisse et Piaget (1963)を読みました。毎月レポーターが回ってくるのはきつかったのですが、結果的に大学院の入試(第2外国語)では大層役立ちました。
<3年生>
3年生前期に私にとって特別なことがありました。知覚心理学の先生が「今度の日心(日本心理学会のこと)で発表するから気が向いたら聞きに来てね」と授業中におっしゃったのです。授業が終わってから「先生、学会って、参加費とか払わなければ入れないんじゃあないですか」と聞きに行くと、「大丈夫。こっそり入れば分からないから」というご返事。(時効とは思いますが、問題があるかもしれないので、その先生のお名前は伏せておきます)。そこで、1人で潜り込むのは怖かったので、何と母を誘って、大阪大学主催の日心に参加しました。そこで、一番関心のあった「記憶」分科会の部屋に行ってみました(声をかけて下さった知覚の先生の発表を聞いたかどうかは忘れてしまいました)。流石に、当時旬だった短期記憶の部屋は、どこも立ち見者が出て廊下まで溢れかえる、という混雑ぶりでした。潜り込んだ私は、梅本堯夫先生ゼミ(京大)のYKさん(小柄な女性)の発表を聞いて、「かっこいい! 私もいつかあんな風に学会で発表したいな」と思ったのでした。一方、横にいた母は「あの人、ちょっとスーツが大きすぎやしないかしらね」などと言っておりました。ここで得たことは、「短期記憶はやはり面白い」でした。そして、YKさんは私の憧れの人になったのでした。
<4年生>
卒論ゼミは、私が尊敬していた平出彦仁先生のゼミに入れて頂くことができました。この先生が、心理学科でネズミを飼い続けていらした先生でした。このゼミで、私は「短期記憶」の実験をやって卒論を書くことができたのです。
以上、45年程前の話です。そうして、私は今でも心理学の教員・研究者を続けています。
今回原稿依頼を頂いたお陰で、「心理学は面白い」について再考する機会ができました。上述のように、最初から心理学が面白いと思ったわけではありませんでした。大学2年までは、心理学の多くの分野の中で、自分と相性がよい分野、面白いと思う内容についてアンテナを立てて探していたように思います。もう一つ、心理学への興味を支えてくれたのは、心理学教室2部屋(1部屋は図書・心理検査・実験器具が配架されている心理学図書室兼閲覧室、司書付き。もう1部屋は食事・出入り自由、コピー機有り)の存在でした。私はこの2部屋に入り浸って、多くの先輩方を見習いながら、自分なりの心理学への姿勢(向き合い方)を形作っていったのではないかと思えます。
もし、学生の皆さんがこれから心理学を学ぼうとするならば、あるいは心理学でいずれ卒論を書こうと思っているならば、まずは、本学の心理学系の先生方の専門分野について調べてみるとよいと思います。本学には様々な分野の心理学の先生が数多くおられますので。また、本学内に、学生が学科(学問)別の勉強するためのたまり場(ラヴィータの学科版)のような場所が用意されているかどうか私は分かりません。が、ないのであれば、自分たちで作っていくことはできると思います。心理学という学問は、一度はまると実に面白いのです。
引用文献
Fraisse P. et Piaget J. (1963), Traité de psychologie expérimentale, 9 volumes, Paris, Presses universitaires de France, 1re édition.
Peterson, L. R., & Peterson, M. J. (1959), Short-term retention of individual verbal items. Journal of Experimental Psychology, 58, 193-198.