通信23「ストレス」への対処方略を選ぶ
静岡産業大学 非常勤講師 可児佳菜子
「ストレス社会」。この言葉は,現代社会を表すものとして,書籍,テレビ,インターネットなどで多用され,私たちにとって身近なものになっています。「テスト勉強が大変でストレスだ」「ストレスがたまっていてイライラする」――このような会話も日常的になされています。うつ病などの気分障害の患者数も,年々増加の一途を辿っていることが,厚生労働省の発表したデータから示されています。このような「ストレス社会」の中で,私たちが心身の健康を保って生きていくためには,何が求められるのでしょうか。
「ストレス」という言葉は,冒頭で挙げた例のように,嫌な出来事やそれに伴う気分の変化などを指す言葉として,ごく一般的に使われています。これをより詳しく述べると,外界から与えられる刺激を「ストレッサー」,それによって心や体に起こる変化を「ストレス反応」として,区別することができます。そして,「ストレッサー」は,大災害,事故,身近な人の死,重病など,滅多に起きないような大きな出来事だけではありません。むしろ,対人関係での小さな摩擦や山積みの仕事など,日常生活での些細なわずらわしい出来事が,心身の健康に大きな影響を及ぼすことが分かっています。つまり,日々生活している中で直面するストレッサーによって,心身の健康が損なわれるリスクは,誰もが抱えているものなのです。
このようなリスクを抱えながらも,自身の健康を守っていくために,多くの人はストレッサーに対して何らかの方略で対処しています。これを「ストレス・コーピング」と言います。
例えば,やらなければならない課題や仕事があるにもかかわらず,思うようにはかどらなくて気持ちがすっきりしない時には,どのような対処をするでしょうか。「気分転換に出かける」,「計画を立て直す」,「そのことを考えないようにする」,「その分野に詳しい人からアドバイスをもらう」――思いつく対処方略は人によって様々ですが,これらは大きく,問題解決型と情動焦点型という2つのタイプに分けることができます。前者は,問題そのもの,つまりストレッサーである出来事や状況の解決につながるものです。先ほど挙げた例では,「計画を立て直す」や「アドバイスをもらう」がこれにあたります。これに対し,後者は,ストレッサーによって起こった嫌な気分を緩和する方略です。「気分転換」や「考えないようにすること」をすれば,仕事そのものが片付くわけではありませんが,気分は楽になります。
このようにしてみると,自分が日頃,いずれかのタイプの方略を,偏って選んでいたことに気づく方も少なくないのではないでしょうか。しかし,いずれかの方略がより効果的だと決まっているわけではありません。
例えば,嫌なことを離れて趣味に没頭したり,親しい人に愚痴を聞いてもらったりすれば,確かに気持ちがすっきりするかもしれませんが,そればかりに頼っていては,仕事はいつになっても進みません。一方で,問題解決型を選ぶことは,仕事に対して真摯に向き合う傾向を示しているようで,一見,望ましい方略だと思われがちですが,帰宅後や休日にも仕事のことを考え続け,気晴らしができなければ,やがて疲弊してしまいます。また,期末テストで良い点数がとれるかどうかを心配している学生の場合,期末テストの10日前であれば,過去問を入手する,ノートや教科書を見直すなどの問題焦点型のコーピングが有効かもしれませんが,テストが始まる直前,着席して問題用紙が配られるのを待っている間には,もうノートを見ることはできません。それよりも,「自分はできる」と言い聞かせたり,深呼吸をしたりして,気持ちを落ち着かせることに焦点を当てた方が良いでしょう。このように,高い効果を発揮する対処方略は,状況によって異なりますし,とることができる方略が限られている場合もあるのです。
したがって,この「ストレス社会」の中では,最適な方略を,その都度うまく選んで対処していくことが,自身の健康を守ることに繋がります。そのためにはまず,1つのストレス事態に対して,とることができる対処方略は数多くあるということを認識する必要があります。そして,そのストレッサーが,自分の力で解決し得るものなのか,その原因がどこにあるのか,等を見極めることも求められます。さらに,与えられた時間や自分の能力といった要因から,自分は今どのような方略をとることが可能なのかを判断して,数ある方略の中から,適切に選んで対処していくことが有効なのです。
「ストレス社会」。この言葉は,現代社会を表すものとして,書籍,テレビ,インターネットなどで多用され,私たちにとって身近なものになっています。「テスト勉強が大変でストレスだ」「ストレスがたまっていてイライラする」――このような会話も日常的になされています。うつ病などの気分障害の患者数も,年々増加の一途を辿っていることが,厚生労働省の発表したデータから示されています。このような「ストレス社会」の中で,私たちが心身の健康を保って生きていくためには,何が求められるのでしょうか。
「ストレス」という言葉は,冒頭で挙げた例のように,嫌な出来事やそれに伴う気分の変化などを指す言葉として,ごく一般的に使われています。これをより詳しく述べると,外界から与えられる刺激を「ストレッサー」,それによって心や体に起こる変化を「ストレス反応」として,区別することができます。そして,「ストレッサー」は,大災害,事故,身近な人の死,重病など,滅多に起きないような大きな出来事だけではありません。むしろ,対人関係での小さな摩擦や山積みの仕事など,日常生活での些細なわずらわしい出来事が,心身の健康に大きな影響を及ぼすことが分かっています。つまり,日々生活している中で直面するストレッサーによって,心身の健康が損なわれるリスクは,誰もが抱えているものなのです。
このようなリスクを抱えながらも,自身の健康を守っていくために,多くの人はストレッサーに対して何らかの方略で対処しています。これを「ストレス・コーピング」と言います。
例えば,やらなければならない課題や仕事があるにもかかわらず,思うようにはかどらなくて気持ちがすっきりしない時には,どのような対処をするでしょうか。「気分転換に出かける」,「計画を立て直す」,「そのことを考えないようにする」,「その分野に詳しい人からアドバイスをもらう」――思いつく対処方略は人によって様々ですが,これらは大きく,問題解決型と情動焦点型という2つのタイプに分けることができます。前者は,問題そのもの,つまりストレッサーである出来事や状況の解決につながるものです。先ほど挙げた例では,「計画を立て直す」や「アドバイスをもらう」がこれにあたります。これに対し,後者は,ストレッサーによって起こった嫌な気分を緩和する方略です。「気分転換」や「考えないようにすること」をすれば,仕事そのものが片付くわけではありませんが,気分は楽になります。
このようにしてみると,自分が日頃,いずれかのタイプの方略を,偏って選んでいたことに気づく方も少なくないのではないでしょうか。しかし,いずれかの方略がより効果的だと決まっているわけではありません。
例えば,嫌なことを離れて趣味に没頭したり,親しい人に愚痴を聞いてもらったりすれば,確かに気持ちがすっきりするかもしれませんが,そればかりに頼っていては,仕事はいつになっても進みません。一方で,問題解決型を選ぶことは,仕事に対して真摯に向き合う傾向を示しているようで,一見,望ましい方略だと思われがちですが,帰宅後や休日にも仕事のことを考え続け,気晴らしができなければ,やがて疲弊してしまいます。また,期末テストで良い点数がとれるかどうかを心配している学生の場合,期末テストの10日前であれば,過去問を入手する,ノートや教科書を見直すなどの問題焦点型のコーピングが有効かもしれませんが,テストが始まる直前,着席して問題用紙が配られるのを待っている間には,もうノートを見ることはできません。それよりも,「自分はできる」と言い聞かせたり,深呼吸をしたりして,気持ちを落ち着かせることに焦点を当てた方が良いでしょう。このように,高い効果を発揮する対処方略は,状況によって異なりますし,とることができる方略が限られている場合もあるのです。
したがって,この「ストレス社会」の中では,最適な方略を,その都度うまく選んで対処していくことが,自身の健康を守ることに繋がります。そのためにはまず,1つのストレス事態に対して,とることができる対処方略は数多くあるということを認識する必要があります。そして,そのストレッサーが,自分の力で解決し得るものなのか,その原因がどこにあるのか,等を見極めることも求められます。さらに,与えられた時間や自分の能力といった要因から,自分は今どのような方略をとることが可能なのかを判断して,数ある方略の中から,適切に選んで対処していくことが有効なのです。