通信15「自己価値の随伴性」~活き活きと努力を続けるために必要なもの~
静岡産業大学 非常勤講師 可児佳菜子
私は,大学生アスリートを対象に,彼らの精神的健康や心理的競技能力について「自己価値の随伴性」という観点から,研究を行っている。
「自己価値の随伴性」とは,自分がどれだけ価値のある人間であるかという評価(自己価値)が,ある出来事や状況に直面した際に,それに伴って高くなったり低くなったりすることである。自己価値が,特定の出来事や状況によって揺らぐことは,不安定な自己像を抱く原因となり,抑うつや対人場面における攻撃的な態度など,様々な弊害が生じることが指摘されている。
例えば,アスリートに関して言えば“試合で目標を達成できなかったら,自分はダメな人間だと思う”,“コーチに叱られたら,自分の価値が否定されたように感じる”といった事態が生じ得る。このような傾向の強い人が,怪我,病気,成績不振等の危機に直面した際には,より強いダメージを受け,精神的健康を損ねたり,ドロップアウト等の結果に繋がったりするリスクが高い。それは選手本人をはじめとする当事者が望まない結果であるというだけでなく,競技活動を通じた成長の機会も損なわれる原因にもなり得ることから,避けるべき事態であろう。
一方でアスリートは,大切な試合での勝利,自身の最高記録の更新といった大きな出来事や,真剣に練習に取り組むこと,コーチやチームメイトに褒められること等,日常的に生じやすい多様な状況において,達成や成功を経験する。このようなポジティブな経験によって,彼らが自己価値を高めているという側面も存在する。つまり,彼らにとって競技活動は「自己は価値のある存在である」という感覚を持つ上で,重要な基盤なのである。自己価値と競技活動との間に,このような密接な関係があるからこそ,彼らは高い目標を持ち,それに向けて努力するというモチベーションを維持することができるのだと言えよう。
以上を踏まえると,アスリートにとって自己価値が競技と随伴することは,現実に適応する上で必要であるとともに,避けがたいことでもある。このような観点から,「自己価値が,競技場面の中でも特に,どのような事柄に随伴していれば,ポジティブな傾向が促進されるのか」あるいは「ネガティブな傾向へと結びつくのか」を明らかにすることを目的に,調査研究が行われた。その結果は以下の通りである。
まず,失敗や挫折によって自己価値が低下する傾向は,抑うつ,不安,競技場面での集中力の低下といった,望ましくない結果につながる。この点は,これまでの多くの研究で示されてきた点と一致する。一方で,自身で決めた目標を達成したり,自分で良いと思える心身のコンディションを保ったりすることによって自己価値を高めようとする傾向は,むしろ,競技に対する意欲や自信を高め,精神的にもエネルギーのある状態で過ごすことを助けることが明らかにされた。ちなみに,自分の意思だけでは決めることのできないような結果(例えば,試合で勝つことや,他人から良い評価を受けること)によって自己価値が高まる傾向に関しては,このような競技者としての適応を促す働きは見出されなかった。
以上に述べたような「適応を促すタイプの自己価値の随伴性」が,どのようにして身についていくのかは,未だ十分には明らかにされていない。しかし,大学生アスリートに限らず,「内的基準を達成することで自己価値を高めようとすること」とは,より具体的に言い換えれば,「自分自身が良いと思える行動をとったり結果を出したりした時に,自分で自分を褒めること」にあたる。つまり,精神的に健康な状態を保ちながら,何かに対して一生懸命に取り組んでいくためには,優劣や他人からの評価にとらわれて一喜一憂するばかりでなく,主体的に基準や目標を定め,それに向けた努力をし,自身の意識や行動を評価していくという姿勢も持つことが重要なのではないだろうか。
私は,大学生アスリートを対象に,彼らの精神的健康や心理的競技能力について「自己価値の随伴性」という観点から,研究を行っている。
「自己価値の随伴性」とは,自分がどれだけ価値のある人間であるかという評価(自己価値)が,ある出来事や状況に直面した際に,それに伴って高くなったり低くなったりすることである。自己価値が,特定の出来事や状況によって揺らぐことは,不安定な自己像を抱く原因となり,抑うつや対人場面における攻撃的な態度など,様々な弊害が生じることが指摘されている。
例えば,アスリートに関して言えば“試合で目標を達成できなかったら,自分はダメな人間だと思う”,“コーチに叱られたら,自分の価値が否定されたように感じる”といった事態が生じ得る。このような傾向の強い人が,怪我,病気,成績不振等の危機に直面した際には,より強いダメージを受け,精神的健康を損ねたり,ドロップアウト等の結果に繋がったりするリスクが高い。それは選手本人をはじめとする当事者が望まない結果であるというだけでなく,競技活動を通じた成長の機会も損なわれる原因にもなり得ることから,避けるべき事態であろう。
一方でアスリートは,大切な試合での勝利,自身の最高記録の更新といった大きな出来事や,真剣に練習に取り組むこと,コーチやチームメイトに褒められること等,日常的に生じやすい多様な状況において,達成や成功を経験する。このようなポジティブな経験によって,彼らが自己価値を高めているという側面も存在する。つまり,彼らにとって競技活動は「自己は価値のある存在である」という感覚を持つ上で,重要な基盤なのである。自己価値と競技活動との間に,このような密接な関係があるからこそ,彼らは高い目標を持ち,それに向けて努力するというモチベーションを維持することができるのだと言えよう。
以上を踏まえると,アスリートにとって自己価値が競技と随伴することは,現実に適応する上で必要であるとともに,避けがたいことでもある。このような観点から,「自己価値が,競技場面の中でも特に,どのような事柄に随伴していれば,ポジティブな傾向が促進されるのか」あるいは「ネガティブな傾向へと結びつくのか」を明らかにすることを目的に,調査研究が行われた。その結果は以下の通りである。
まず,失敗や挫折によって自己価値が低下する傾向は,抑うつ,不安,競技場面での集中力の低下といった,望ましくない結果につながる。この点は,これまでの多くの研究で示されてきた点と一致する。一方で,自身で決めた目標を達成したり,自分で良いと思える心身のコンディションを保ったりすることによって自己価値を高めようとする傾向は,むしろ,競技に対する意欲や自信を高め,精神的にもエネルギーのある状態で過ごすことを助けることが明らかにされた。ちなみに,自分の意思だけでは決めることのできないような結果(例えば,試合で勝つことや,他人から良い評価を受けること)によって自己価値が高まる傾向に関しては,このような競技者としての適応を促す働きは見出されなかった。
以上に述べたような「適応を促すタイプの自己価値の随伴性」が,どのようにして身についていくのかは,未だ十分には明らかにされていない。しかし,大学生アスリートに限らず,「内的基準を達成することで自己価値を高めようとすること」とは,より具体的に言い換えれば,「自分自身が良いと思える行動をとったり結果を出したりした時に,自分で自分を褒めること」にあたる。つまり,精神的に健康な状態を保ちながら,何かに対して一生懸命に取り組んでいくためには,優劣や他人からの評価にとらわれて一喜一憂するばかりでなく,主体的に基準や目標を定め,それに向けた努力をし,自身の意識や行動を評価していくという姿勢も持つことが重要なのではないだろうか。