グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ホーム >  応用心理学研究センター >  通信11「マーケティングと心理学」

通信11「マーケティングと心理学」


静岡産業大学 非常勤講師 平野美沙子

ある企業で新製品の開発に携わったことがある。その企業ではインターネットを使った新しい家電製品の開発を企画していた。インターネット、家電、新商品と言うと、一見、心理学は全く関係のない分野のように思える。しかし、実際には心理学(または現代人の心理を見通す力)が非常に深く関わっている。

商品開発とは、今の生活の中に足らない部分(または、より便利になりうる部分)を見つけ出し、それを商品として消費者に提供していくことだ。私が関わった商品開発の過程では、既存のインターネットや通信技術を使って、どのような顧客に、どのような新しい商品を提供できるか、また、どのような商品ならば、どの顧客層が購入するか、を考えていた。例えば、核家族化が進んだ現代で、遠くに住んでいる祖父、祖母には孫の成長を分かち合いたい気持ちがあるものの、なかなか会いに行けない。では、どのような家電製品が自宅にあれば、この気持ちの溝を埋められるだろうか。現在であれば、ウェブカメラのようなインターネットを通じた音声、画像転送や、写真を次々に自動で映し出すデジタルフォトフレームなどのようなものがある。これらの製品は「遠くにいる家族(孫)に会いたい」という気持ち(心理)をうまく分析し、商品化に結びつけたものだ。

また最近、大きな注目を浴びているアップル社のiPadなども、現代人の心理をうまく突いている商品だと言える。携帯電話とパソコンが氾濫している現代で、人々は24時間、他者とつながれて、しかも大量のデータを処理、保存できる新しい情報通信機器を求めていた。携帯電話では小さすぎて、パソコンでは大きすぎる。持ち運びにちょうど良い、軽くて高性能な新しい情報通信機器はないのか。そこにアップル社がiPadを出し、このニーズをうまく吸収した。さらに実はiPadは、それまで携帯電話やパソコンに苦手意識を持っていた高年齢層に特に大きく支持されている。iPadを使えば、画面上で操作するだけで簡単に文字を拡大したり縮小したりでき、老眼傾向のある高年齢層には眼鏡を使わなくとも読書ができるという利点があるからだ。これも「本を読みたいが視力の低下などで、なかなか読み続けられない」という高年齢層の消費者の心理をうまく突いて、その溝をうめる(ニーズを吸収した)商品を提供していると言える。

このように考えると、実はマーケティングと心理学は非常に深くつながっている。現代人の生活の中にある「心の隙間」を分析し、どのような技術を使い、どのような商品を提供すれば、その隙間が埋まるか(顧客が購入するか)を考える。その心理分析がマーケティングの基本となる。もちろん、商品開発には、それ以外にも新技術の導入や、商品の利便性の向上、小型化など他の要素も含まれてくる。しかし、iPadのように、それまで存在しなかった全く新しい商品が生まれる時、そこには必ず「現代人に不足しているものは何か」、「人々は今、どんなものを欲しがっているか」という心理的分析が不可欠になる。つまり心理学的視点というものはどのような分野においても、人間が関わってくる分野であれば必ず必要となる知識なのだ。